『Adr1ft』VRで体感する、大破した宇宙ステーションからの単独生還を目指す究極のサバイバル。【Rift Launch】 | ニコニコニュース

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文・撮影:編集部 ミル☆吉村

●映画「ゼロ・グラビティ」的な極限状況からの生還を目指せ

 PC用VRヘッドマウントディスプレイOculus Riftが3月28日より正式ローンチ。すでにお届けしたハードウェア周りについてのリポートに引き続き、注目のソフトウェアを連日紹介していく。

 本日ピックアップするのはthree one zeroの一人称視点アドベンチャーゲーム『Adr1ft』。何らかの原因によって崩壊した宇宙ステーションからたったひとりで生還を目指すという、映画「ゼロ・グラビティ」的な宇宙空間を舞台にしたサバイバルがテーマだ。Oculus Riftの公式ストアOculus StoreだけでなくSteamでも配信が行われており、Steamでの価格は1980円(Steam版もOculus Riftに対応している)。

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●宇宙、それは苦しい

 舞台2037年の宇宙ステーション。女性宇宙飛行士アレックス・オオシマが意識を取り戻すと、ステーションが何らかの原因によって崩壊しており、自分も壊れかけのEVAスーツ(船外活動服)ひとつで宇宙の彼方へと放り出されかけているという、いきなりの絶体絶命状態からゲームは始まる。


 というわけで、プレイヤーはオオシマ宇宙飛行士となって、サポートプログラムの電子音声による指示を頼りに、バラバラに浮かぶステーションの各部を飛び回り、最低限の機能を修復して生還を目指すことになる。

 そこで大問題となるのがスーツの酸素だ。EVAスーツの事故発生時に受けた損傷により酸素保持量が低下しており、短時間しかもたない。しかも酸素は主人公の呼吸だけでなく、スーツで宇宙空間を推進する際にも消費される(どういう仕組みかはよくわからないがそういうことになっている)ので、道中に落ちている酸素パックや、まれに設けられているスーツ用の酸素供給ステーションで補給していかないと、あっという間に窒息死がやってくる。

●VRなしでも遊べるがVR版を強く推奨

 ここで一応触れておきたいのだが、本作はVRヘッドマウントディスプレイがなくても、普通のPCゲームとしてプレイ可能だ。3~4時間程度の小品だが、SF心が燃える近未来の宇宙ステーションの造形や、その残骸がキラキラと輝きながら巨大な地球を眼下に散らばっていくさまは美しく、トレイラーを見て惹きこまれた人ならば、実際プレイしてもそう間違いはないと思う。

 しかし、これは絶対にVRでやるべき作品だ。というのも、VR版は自分が本当にスーツを着て宇宙遊泳しているような感覚が得られるので、本作の窒息恐怖症的だったり閉所恐怖症的な側面が倍増するのだ。


 これにさらに、VRで地球・ステーション・自分というスケールの違いが実感されることによる孤独感や無力感、無重力空間を上下前後左右に跳びまわるうちに方向感覚が狂ってくる焦りまで積み重なってくるのだから、テーマに対してVRで究極の体験が実現しちゃっているのである。

 というわけでプレイ中は、別にエイリアンが出てくるわけでもないのに、窒息が死ぬほど恐ろしい。緊張感で手に汗をかきながら、目的地までの経路上に存在する酸素ボンベから酸素ボンベへ、少しでもロスがないよう微調整をこまめに加えながら進んでいくことになる。

 話が進んでスーツの機能が段階的に回復するに連れて楽になっていきはするのだが、序盤は冗談じゃなく緊張で息が詰まるし、1時間ほど連続プレイしたあと、しばらく手の震えが止まらなかったほど。実際、本当にその手の恐怖症の気配がある人は控えた方がいいだろうし、問題ない人も30分ぐらいで休憩を取るよう勧めたいぐらい。

●苦行? いや、プロとして困難を乗り越える極限の体験だ

 苦手な人は「なんでそんな苦行をわざわざするのか」と思うかもしれないが、このサバイバル感がたまらないんだから仕方がない。意図的に悪く言えば「EVAのもっさりした挙動で状況を把握しづらいインターフェースを頼りに誰もいない宇宙空間でおつかいするゲーム」となりかねないところ、究極の「孤独かつ絶体絶命の状況下から、使えるものをフル活用してプロフェッショナルとしての冷静さを取り戻して立ち向かう」プレイ装置となるのがVR版『Adr1ft』なのだ。

 これはかなりトリッキーで、普通だったら微妙になりかねない設計の部分も、テーマ的には考えるとアリになったりするのが面白い。


 例えばこのEVAスーツ、簡易ナビは左下、酸素残量は右下といった具合に、各種ステータスがバイザーのいろんな所に表示されるのだが、非VR版ならサッと視線を走らせれば済むところ、VR版ではわざわざそっちに首を振って見なきゃいけない。
 これはアクセス性が悪いので、普通はVR版ではバイザーに表示を固定せずに、常に視界中央で確認できるように表示方法を変えたりするものだが、本作はあえてそうしない。プレイヤーに「作業の合間に計器を素早くチェックして常に状況把握に務める」という作業を意図的に行わせるのだ。

 あるいは、もっさりした動きや、慣れるまで道を間違えまくる簡易ナビの見づらさもプレイヤーに優しくないが、これも、そうなっていることで「ナビの表示方向が変わったらすぐに対応し、できるだけ無駄のないように動く」ことをプレイヤーに叩きこむ。


 こうしてスラスターの挙動をマスターし、移動しながら目的地への方角チェック、酸素チェック、最寄りに落ちている酸素パックの把握を即座にできるようになれば、生存への道がひらけてくるという寸法だ。これは、ゲーム的な複雑さを加えずに、「限られた酸素の中で奔走する」というシンプルな極限状況をそのまま、究極の擬似体験へと昇華させるのに役立っていると思う。

 ちなみに、天地がぐるぐると入れ替わったりするので酔う可能性が高い部類に入るが、宇宙飛行士だって宇宙酔いがあるので致し方なしといったところか。ただしゲームの設計上酔いやすいのは開発側でも把握していて、パニック時にスーツの向きを強制リセットするボタンなども用意されている。

 というわけで、ハードルが高い分、生身では絶対に遭遇したくない究極の体験ができるVR版『Adr1ft』。プレイ環境を揃える価値のある、ほかのゲームにはないお値段以上の価値が確かにあるので、機会があえばぜひトライしてみてほしい。