七月隆文による恋愛小説『ぼくは明日、昨日の君とデートする』(宝島社文庫 以下:ぼく明日)が累計部数80万部を突破したという。
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2014年8月に刊行されて以来、読書メーターをはじめとして口コミでじわじわと広がり、2刷時にこうした読者コメントを掲載した帯に巻き替えてさらに大きく部数を伸ばしたという。2016年12月には映画化も控えており100万部達成も目前だ。
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』
こうした動向を受けて、他版元も手をこまねいて眺めてはおらず、装丁やタイトルからぼく明日の影響を感じさせる作品が複数刊行されている。
ぼく明日と同じカスヤナガト氏のイラストを採用し、2015年12月の発売から1ケ月で10万部を突破した『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』(スターツ出版文庫)もその一つだろう。作品は、ぼく明日の刊行以前の2012年よりWEB上で連載されていたもので、書籍化にあたって本タイトルに改題されたという。(旧題はStarry heavens ─キミといる星月夜─)
帯でもぼく明日同様、読書メーターや書店員のコメントを引用し、泣ける感動作であることをアピールするなど、ぼく明日によって掘り起こされた読者層を取り込もうという、ある意味潔い販売戦略が成功を収めた例といえるだろう。また、ぼく明日が「時間」をめぐる物語ならば、本作は「記憶」をめぐる物語。1日しか記憶がもたない少年と、心に傷を抱えた少女との淡い恋を、繊細なタッチで描いている。
『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』
もう一作はタイトルにぼく明日の影響?を感じさせる作品をライトノベルから紹介したい。それが『明日、今日の君に逢えなくても』(MF文庫J)だ。書影を見るとわかるが、昨今のライトノベルとは一線を画す雰囲気の装丁になっており、普段ライトノベルの棚に行かない読者層にも手に取ってほしいと言う意図が感じられる。
ぼく明日の著者、七月隆文氏はもともとライトノベルで活躍しており『俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件』(一迅社文庫)が昨年末にアニメ化されるなど人気を博している。近年、七月氏や『ビブリア古書堂の事件手帖』の三上延氏などライトノベル出身の作家が一般文芸に活躍の場を拡げる例が増えている。
しかし作家の越境は増えている反面、読者の越境(一般文芸の読者がラノベの棚にいく状況)はさほど進んでいない印象もあり、ライトノベルにもこういった作品が出てきているという点でも注目したい。
『明日、今日の君に逢えなくても』
ぼく明日が「時間」をめぐる物語であるのに対して、こちらは「人格」をキーワードに展開され、少女の主人格を追うミステリー仕立ての恋愛小説になっている。
恋愛小説の盛り上がりというと、個人的には2001年に刊行された『世界の中心で愛を叫ぶ』(小学館)に端を発する一大ブームを思い出す。この時も、柴咲コウが本誌ダ・ヴィンチに投稿した書評コメントを掲載した帯から大きく火がつき、300万部を超えるヒットとなった。その後『いま会いに行きます』(小学館)などもヒットを飛ばし“純愛ブーム”と呼ばれるまでになったが、果たして今回はどうなるか?
春は出会いの季節。散歩がてら、書店に足を運んで気になる恋愛小説を手に取ってみてはどうだろうか。