自ら炎上の種を振りまいているのか? 堺市が、同市が始めた「有害図書類を青少年に見せない環境づくりに関する協定」に対する、日本雑誌協会と日本書籍出版協会による公開質問状の回答が明らかになった。
「有害図書類を青少年に見せない環境づくりに関する協定」は、堺市が参加している国連UNWomen(ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関)が取り組む「セーフシティーズ・グローバル・イニシアティブ」の具体的施策として始まったもの。この事業の中で堺市は「堺セーフシティ・プログラム」を開始したが、その一貫として「コンビニエンスストアに性暴力を主題としたものを含むポルノ漫画やポルノ雑誌が、目につく形で展示されている」という問題に対処するため、コンビニチェーンに対して、成人雑誌陳列棚の目隠し取付けや、個別の包装の実施を呼びかけることになったというものである。
現在、ファミリーマートがこれに応じ、先月16日から個別の包装などが実施されている。しかし、この協定は規制対象となる「成人雑誌」の基準も不明瞭のまま。堺市では規制対象となる「成人雑誌」を「大阪府が府青少年健全育成条例で定める有害図書」(堺市担当者)としていたが、具体的な基準は不明瞭なままだ。
さらに堺市が独自に実施する包装はフィルムが幅12センチにおよび、府の青少年健全育成条例施行規則を逸脱したものとなっていた。
両協会では、これらの点とともに、図書を選択する自由を奪うという「表現の自由」にかかるおそれについて、堺市に対して回答を求めていた。
これに対し、堺市は「協定はコンビニエンスストアが自主的判断するもので、解除も可能なため府条例には、逸脱しない。さらに、すべての店舗の網羅的な規制ではないため(註:現在、参加しているチェーンはファミリーマートのみ)、図書を選択する自由を奪うものではない」としている。
とりわけ問題なのは、個別包装の対象となる基準。先日の「大阪府が府青少年健全育成条例で定める有害図書」という発言と違い、各出版社が行っている小口のシール2点止めを行っている雑誌が対象だとしているのだ。
そもそも、このシール止めは2003年の東京都青少年健全育成条例改定の際に、出版社が始めた自主規制。業界による自主規制に、行政がタダ乗りしているというわけだ。
さらに「堺セーフシティ・プログラム」の目的である「女性・女児に対する性暴力の防止・減少」と「青少年の健全育成」の関連性。加えて、成人向け雑誌を青少年に見せないことが性暴力の防止・減少につながる根拠を求める質問に対しては「市民の意識向上云々」と長文を綴っている。
堺市が予算を使って包装フィルムなどを作成しながら、「民間のやっていること」と説明。さらに、対象の基準は出版業界にタダ乗りしていることを隠そうとともしない。にもかかわらず、同市の竹山おさみ市長は、3月25日にTwitterで次のように発言している。
「雑誌協会等の言う表現の自由侵害はF社との自主協定であり失当です」
https://twitter.com/osamit_sakai/status/713286024156176384
失当とは、的を射ていないという意味。的を射ない回答に加え、市長の発言に両協会の関係者は怒りを隠さない。
日本雑誌協会編集倫理委員長の高沼英樹氏は語る。
「的を射ていないのはどちらでしょうか。あなたたちこそ、そうでしょうと言いたい」
回答を受け両協会では、週明けにも新たな声明を発表する準備をしている。
08年の堺市立図書館BL小説撤去事件の取材の際には、各種人権団体や人権がらみの市民からのクレームには全面降伏。常に人権に理解しているパフォーマンスを欠かさないという堺市行政の姿が浮き彫りになった。その性質は、今でもまったく変わっていないことがよくわかる事件である。
(文=ルポライター/昼間たかし http://t-hiruma.jp/)
【公開質問状】堺市「有害図書類を青少年に見せない環境づくりに関する協定」について
http://www.j-magazine.or.jp/doc/20160318.pdf
堺市への公開質問状に対する回答
http://www.j-magazine.or.jp/doc/20160331.pdf