その被害の大きさから、“戦後最大の自然災害”とも呼ばれた「東日本大震災」。3月11日で丸5年が経過したものの、いまだに17万人以上もの被災者が避難生活を強いられているという。
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なかでも東北地方は壊滅的な打撃を受け、今なお災害の爪あとが色濃く残っている地域も多い。今回ご紹介する『みちのくにみちつくる前編・後編』(しまたけひと/双葉社)は、そんな被災地を作者が自ら歩き、地元の人々との心の触れ合いから着想、創出したストーリー漫画だ。
作品の舞台は「みちのく潮風トレイル」と呼ばれる遊歩道。そもそもは「北陸の海岸沿いに点在する自然歩道をひとつにつなげ、観光客に歩いてもらおう」という、環境省主導の復興プロジェクトで、青森県八戸市から福島県相馬市まで、その全長は700キロメートルにも及ぶ。まさに「東北の遍路道」といってよいだろう。
そしてその長い道のりを、ゴールを目指して歩くのは3人の主人公。作者の分身となる中年漫画家・シカイズ、オットリ系の女子大生・タエ、勝ち気な女性フリーライター・トヨノだ。3人はスタート地点の神社で一緒にお参りを済ませ、意気揚々と第一歩を踏み出す。
しかし出発早々、不穏な空気が一行を包む。レジャー気分で楽しむトヨノと対照的に、タエが「気が重い」と本音を漏らす。「被害が酷かった地域も歩くのに、楽しんでいいのか分からない」と、沈んだ表情で思いつめてしまうのだ。
これは被災地を観光目的で訪れる人にとって、やや身につまされるテーマではないだろうか。観光によって復興を手助けしたい、しかしそれは「不謹慎」にあたるのではないか。本書ではこういったデリケートな問題と、真正面から向き合っていく。
結局、このタエの葛藤には、トヨノが笑顔で諭すのだが、それが何とも気持ちがいい。「この旅で“悲しいもの探し”はしたらアカン」「綺麗な景色を見て、おいしい物を食べて、楽しい出会いがあって、ウチらがこの道を作るんだ」「ほんでウチらが楽しむ事が、東北復興につながる!」と、あっけらかんと笑うのだ。
もちろんこれは、考え方の1つであって正解ではない。しかし、本書にはこういった問題提起が随所にちりばめられており、読者自身が考え、自分なりの答えを導き出すキッカケを与えてくれる。そしてそれこそが、本書の真のテーマといえるのではないだろうか。
ちなみに本書は、著者にとって『アルキヘンロズカン』『敗走記』に続く、「歩く漫画家シリーズ」の3作目。巻末にはオマケ要素として、これまで膨大な距離を歩いた著者ならではの「長距離歩行のコツ」も掲載してあるのだが、これがまた実用的で面白い。
震災を改めて考える契機として、また、お遍路活動の指南書として、ぜひ一度、本書を手に取ってみてほしい。
文=西山大樹(清談社)