コンビニの成人向け雑誌の表紙を「目隠し」する取り組みが大阪府堺市で始まり、憲法で保障されている「表現の自由」に触れるのではないかと議論を呼んでいる。日本雑誌協会は日本書籍出版協会と連名で4月4日に声明を発表。「成人に対する図書選択の自由を阻害する」として、すみやかにやめるよう求めている。
目隠しに使うのは、縦12cmのビニールカバーで、成人向け雑誌コーナーに陳列される雑誌が対象。カバーを巻くと表紙の半分ほどが見えなくなるという。
堺市とファミリーマートが協定を結び、3月16日に始まった。堺市の市民協働課によると、堺市の11店舗(4月5日現在)で実施されており、順次店舗数を増やしていくという。
●「協定と言うが、公権力が介入した事実上の規制だ」これに対し、日本雑誌協会と日本書籍出版協会は、大阪府青少年健全育成条例から逸脱した過剰な規制だと主張している。
条例では、有害図書類を「他の図書類と区別」することや、ビニール包装やひも掛けなどで「容易に閲覧できない状態」にすることは規定されているものの、表紙まで見えなくするようには書かれていないからだ。
その上で、「内容を表紙から確認できず、図書を選択する自由を奪われる」という理由から、表現の自由に抵触する可能性があると訴える。
一方、堺市側は次のように反論する。
「目隠しカバーは条例に基づいた取り組みではありません。強制のない自主的な協定によるものなので、府条例の逸脱にはならないと考えています。
また、協定を結んだのはファミリーマートだけで、ほかのコンビニチェーンとの締結は検討していません。すべてのコンビニを網羅するわけではないので、憲法違反にも当たらないという理解です」
しかし、日本雑誌協会の担当者は、「協定と言うが、目隠しカバーなどの費用として、堺市は95万円を計上している。公権力が介入した事実上の規制だ」と語気を強める。
「ファミリーマートだけというが、全店舗で実施されれば堺市のコンビニの約3分の1になる。加えて、堺市は青少年の育成などについて、セブンイレブンとも包括協定を結んでいる。いつ目隠しカバーの協定を結んで、対象店舗が拡大するかわからない」
●「『一企業との契約だから』を認めると、暴走する」協会は、目隠しカバーの対象範囲が曖昧なことも問題視している。堺市が結んだ協定では、対象となる雑誌は府青少年健全育成条例で「有害図書類」に指定されたものとなっている。しかし、実際の運用では、成人向け雑誌コーナーに陳列される商品すべてに目隠しカバーがかかっているそうだ。
協会の人権・言論特別委員会の田近正樹委員長は次のように述べる。
「堺市は、コンビニの成人向け雑誌コーナーの陳列基準が、『(小口シール)2点留め』であると答えている。しかし、2点留めは我々が自主規制として貼っているだけだ。
2点留めの雑誌が必ずしも条例が定める『有害図書』になるとは限らないし、2点留めしていなくても有害図書になることはある。堺市はその辺りの実情をわかっていないのではないか。大まかに投網をかけているように思える」
ネット上では、対象がアダルト雑誌であることから、堺市の取り組みを評価する声も多い。しかし、田近委員長は規制の「暴走」を懸念する。
「『一企業との契約だから良いじゃん』という考え方もあるかもしれないが、公的機関がお金を出して作ったもの(カバーなど)を無償で提供している。これを認めたら、条例を超えて何でもできてしまう。ほかの市町村もやるかもしれないし、暴走する可能性だってある。
今回の協定には、府の青少年健全育成条例にひっかかる本が対象と書いてある。であれば、対象の本はすでに条例で処理の仕方が決まっているはず。条例で規制がかけられているのに、議会のお墨付きもなく、その範囲を超えて規制しようとしている点が問題だ」
一方、堺市は、「声明について特に対応は考えていない」と話している。
(弁護士ドットコムニュース)