日本コカ・コーラが展開する緑茶ブランド「綾鷹」から、3月21日、新商品が発売された。「綾鷹にごりほのか」(希望小売価格・税抜140円/525mlペットボトル 他)という商品名の通り、「綾鷹」ならではの“にごり製法”にこだわりながらも、爽やかで優しい味わいを実現した一品だ。
【写真を見る】宇治・上林記念館に展示されている、豊臣秀吉から宛てられた書状
「綾鷹」は、急須で入れたような本格的な味を追求し、2007年に誕生。その開発に携わり、同ブランドを支え続けているのが、450年の歴史を持つ老舗茶舗、上林春松本店だ。新作の「にごりほのか」をはじめ、これまでに発売された「綾鷹」シリーズには、磨き抜かれた茶師の技や、品質へのこだわりが生かされている。そこで今回は、発売10周年を迎えた「綾鷹」のおいしさの秘訣を探るべく、京都・宇治の上林春松本店と上林記念館を訪れた。
■ 日本のお茶文化と共に歩んできた上林家
まずは、上林春松本店の歴史をざっと紹介しよう。
上林家と宇治茶との結びつきは、永禄年間(1560年頃)にまで遡る。初代が丹波・上林郷から宇治に移住し、茶業に携わったのが始まりだ。その後、足利義満が茶園を開いた際に手厚い庇護を受け、有力茶師として名声を広めた。
戦国時代の三大武将との関わりも深い。宇治・上林記念館には、豊臣秀吉から宛てられた書状も展示されている。書状には「茶の質は良いが、詰め方が雑で中身がこぼれていた」と怒りが記されているが、上林家ではこれを秀吉からの激励と捉えているという。それだけ、茶師として可愛がられていたということだ。
秀吉の没後、徳川家康は上林家に宇治代官、さらには茶頭取と呼ばれる役職を任命。幕府の年貢の収納などを預かると共に、茶師全体の総括を担う、重要な役割を果たしていた。その後、明治維新の幕藩体制の崩壊により顧客を失うこととなり、多くの茶師たちが茶業から離れていく時代へ突入。そのような中、第十一代上林春松は新たに問屋業を始め、茶師から茶商へ転身した。
この時、一般の市民に向けて販売されたお茶の名前が「綾鷹」であったと伝えられており、今日のペットボトル飲料「綾鷹」はここから名付けられている。上林春松本店の上林秀敏代表は、「時代に翻弄されながらも、伝統と革新を大切にしてきたからこそ、今の上林家があります」と話す。「綾鷹」は、上林春松本店に受け継がれてきた“温故知新”の社是なくしては、誕生しなかった商品と言えるだろう。
「綾鷹」を開発する際、上林春松本店が最初に協力を行ったのが、茶葉をブレンドする茶師の技、合組(ごうぐみ)だったという。今回、記者は5種類の茶葉を配合し、自分好みの緑茶作りに挑戦。実際に茶葉を合わせる作業は上林代表に行っていただいたが、茶葉の個性を見極める、拝見と呼ばれる作業を主に体験した。
■ 世界に1つだけのオリジナル緑茶作りを体験
まずは視覚を通して、茶葉の色を確認するところからスタート。次に、手で掴んで茶葉の硬さや大きさ、手触りを感じていく。手にチクチクと刺さるほど鋭いものから、柔らかくサラサラとこぼれ落ちていくものまで、触感の違いは明らかだ。続けて、鼻を近づけて香りを嗅ぎ比べる。始めは少し苦戦したが、やがて花のような香りや青葉のような香りなど、少しずつその違いがわかってきた。
次はいよいよ抽出。拝見茶碗と呼ばれる真っ白な茶碗に、熱湯に近い温度のお湯を使用して、同じ条件のもと注いでいく。茶碗から立ち上る湯気を嗅いでみると、茶葉の時と比べ、個性がよりはっきり出ているのがわかる。抽出したお茶の色を確かめた後は、最後の工程である味の確認へ。
上林代表によると、人間の五感の中で1番不安定なのは味覚とのこと。寝ている間、嗅覚や視覚は働いているが、味覚は食べる時しか使わないため、他の感覚に比べて劣っているそうだ。そのため、拝見の手順の中で、味の確認は最後に行うという。
「迷った時は、最初の直感を信じると良い」という上林代表のアドバイスに従い、茶葉の状態で香りを嗅いだ時から気に入っていた、1種類の味を生かすことにした。こうして、“なんとなく好き”という思いのみで配合した、オリジナル緑茶が完成。自分の五感があまりにも頼りにならず、メモに書き記した各茶葉の特徴は、自信の欠片もない。それでも、上林代表に合組をしていただいている間は、まるで我が子の誕生を見守るような心境だった。今回の体験を通じて、緑茶というカテゴリーの中で千差万別の味わいを生み出す茶師の技が、いかに卓越したものであるかを実感した。
取材を終えた今、「綾鷹」のペットボトルを手に取ってみると、緑茶だけではないずっしりとした重みを感じるようだ。伝統を受け継いできた茶師たちの技や努力、文化といったものが、ボトルの中に一緒に詰まっているのかもしれない。
新商品の「にごりほのか」は苦味や渋味が抑えられており、食事のお供としてだけでなく、喉が渇いた時にもゴクゴクと飲める味に仕上がっている。好みやシーンに合わせて、より気軽に楽しめるようになった「綾鷹」シリーズで、緑茶の奥深い魅力を感じてみてはいかがだろうか。【東京ウォーカー】