5月入園の受付がスタートし、次年度の保活がすでにスタートしたともいえますが、この4月から、初めての保育園生活を送るお子さんも多くいらっしゃることでしょう。
何としても“保育園”に滑り込むための方法【東京都23区の保活事情】
我が家の次男(1歳)も、4月から転園して新しい保育園に通うことになりました。環境が変わって数日、という1年で今がもっとも不安定な時期ですが、時折泣きつつも、ご飯をもりもり食べて、元気に過ごしているようです。
さて、「保育園落ちたブログ」問題をきっかけに、政治の世界でも保育園問題が大きく取り上げられている昨今。
読売新聞社が行ったアンケートでは、今回、東京23区の保育園1次募集の平均倍率が、定員に対しての1.52倍、区によっては2倍……という結果が報道されており、平成28年度の保活は、感覚的にも数値的にも、例年以上にきびしかった印象です。
先述の次男も、長男が通う園への転園申請が通らず、第二希望園に落ち着くこととなりました。
例年であれば、“きょうだい加点”があれば入園できていたため、私自身も同級生ママたちも、大変驚いた春先となったのです。
保育園落ちなくても、「ブラック保育園」が恐い
そんな折、ショッキングなタイトルの本が発売されました。
「事故と事件が多発する ブラック保育園のリアル」(脇貴志 著・幻冬舎)
冒頭で次から次へと出てくる保育園での事故事例に、つい、自分の子がそのような目に遭ったら……!と想像して怖くなったのです。
著者は、全国の保育園に事故やトラブルに対しての24時間専用ダイヤル「危機対応サービス」を提供する、株式会社アイギスの代表。
保育園に特化した事故防止セミナーで年150回以上講師を務め、事故が起きてしまったときの対応アドバイザーも勤めています。
今回は、この本の著者・脇さんに、これから保活をする上での心構えや、保育園児親として気をつけることはなにかについて伺いました。
──読みすすめるうち、これからはじめて子どもを預けようとするならば、怖くなってしまうような事故事例が続きました。“ブラック保育園”に当たってしまわないように、見学の際にはどこに注目すればよいでしょうか。
「一言でいうと園の雰囲気だと思います。たとえば、職員の緊張感です。緊張しすぎて話しかける余裕もない職員や周りの状況が明らかに見えていない職員が大勢いるところは、要注意でしょう。あとは、園内が整理整頓されていないところは、職員に対する基礎教育が行き届いていない可能性があるので、モノもヒトも紛失しがちです。そういった点での雰囲気です。」
──時期によっては「保育スタッフの負担になるから」という理由で、保育園の見学を断られたことがありました。しかし、利用者である我々が保育園を選べる立場にないのが現状です。見学できない園から少しでも様子を知るための注目ポイントはあるのでしょうか。
「一番良いのは、利用者の口コミです。いわゆる評判です。入れたい園にすでに通わせている保護者に気になるところを聞いてみるのが一番参考になると思います。ただし、その評価はあくまでも利用者個人の主観的感想であることを念頭に参考にしてください。」
入園してから「ブラック」な現状に気付いてしまったら
──保育園に入園してから“ブラック保育園”である事に気づいてしまった時、なにか保護者ができる対処法はありますでしょうか。
「園と利用者のコミュニケーションだと思います。一気に解決策を講じるのではなく、お互いが協力して、あるべき姿に少しずつ近づけて行くのが良いのではないでしょうか。」
──保育園に通ううちに、担任の先生とどうもソリが合わない、話が通じないなどの経験が過去に何度もありました。会社であれば通じるはずのコミュニケーションが「保育園の先生」を相手にはうまく行かないことも多く、いらいらしたり落ち込むこともあります。
“保護者”としての我々は先生とどのような気持ちでコミュニケーションを図ればよいのでしょうか。
「『保育園の常識は社会の非常識』という言葉があります。保育士さんとコミュニケーションを図る前提として、このことは頭に入れておいたほうが良いでしょう。ちなみに保護者と保育園のトラブルの中で多いのは、保育士の社会性が未熟であるがゆえに起きるものです。つまり、“会社”で通じる常識が通じないということなのです。専門性が高いわりに社会性が低いという問題は、保育士だけでなく、「先生」と呼ばれる方々に多い症状だとも言えます。」
待機児童解消、どうする? どうなる?
──事件、事故をはじめ、保育園がらみのトラブルを数多くごらんになってきた脇さんですが、今年、例年にないほど保活は荒れ、連日ワイドショーやインターネットで保育園がらみの情報が持ち上がっています。
政府が出してきた、様々な待機児童解消の緊急対策案について、専門家としてはどのようにごらんになっているのでしょうか。ご意見をお聞かせいただければと思います。
──1. 小規模保育の3歳児まで拡大 について
「死亡事故は0~2歳に集中しています。小規模保育施設は死亡リスクの塊だともいえるのですが、それ本来の事故対応の十分に行われているともいえない状態なのに、3歳までそこに押し込むという政策は、量的充足のみに偏った政策だと思います。」
保育士さんたちの待遇改善は
──2. 保育士の配置基準緩和 について
「現在の基準ですら十分だとはいえないのに、保育士の処遇改善もなしに配置基準を緩和して、ますます保育士の仕事量を増やすというのは、これも量的充足に偏った政策としかいえないでしょう。」
──3. 保育士の給与4%引き上げ について
「目先のことしか考えていない政策です。保育制度全体を見た改善をしなければ、即効性があれども、継続性なしということになると考えます。」
──4. 一時保育の枠を待機児童向けに利用すること について
「これは実現性の高い政策だとは思います。ただ、都内の一時保育予約日に朝5時からお母さんたちは行列を作っている状況下で、空いている枠があるかどうかは疑問です。」
──そのほか、現在の保育システムなどについて、お考えになるところはありますか?
「全国各自治体での保育分野への参入障壁撤廃について不平等感があると思います。株式会社排除の自治体は多く、保育参入への機会はフェアではないと感じます。」
──最後に、“ブラック保育園”がなくなり、どの園もよりよい環境になるためには、なにが必要だとお感じになりますか? また、保護者側でできることはなにかあるのでしょうか。
「まずは、保育士養成過程の見直し。安全対策、保護者対応なども養成過程で能力を育成することが重要だと思います。あと、園長の管理能力に基準を設けることも必要だと思います。
保護者側でできることは、保育を保育園任せにするのではなく、保護者も意見を出し合いながら協力して園作りをしていくことが大切ではないでしょうか。」
“ホワイト化”は可能?
「ブラック保育園」の“ホワイト化”は可能?
子ども2人がそれぞれ1回ずつ転園したため、親としては、公立認可保育園を2園、私立認可園(社会福祉法人)1園、私立認可園(株式会社)1園の、計4園みてきました。
同じ区立といえども方針が違えばカリキュラムは異なり、私立にいたってはなおさら園によって異なる範囲が大きく、さらに、それらは毎年フレキシブルにルールが変わっていきました。
園の内部で見直してルールが変わったこともあれば、保護者からの意見で、より合理的に変わっていったこともあります。
脇さんがおっしゃるように、先生たちと保護者がコミュニケーションを密にとっていくことで“ブラック”だったものも“ホワイト化”できるのかもしれません。
来年4月に入園を考えているみなさんは、どうか“ブラック保育園”に当たってしまわないように、そして現在「もしかしてこの園は……?」とお思いの方も、よりよい環境構築に向けて、いっしょにがんばっていきましょう。