アニメ「ラブライブ!」出演声優のアイドルグループ「μ's(ミューズ)」のメンバー・新田恵海さんのアダルトビデオ(AV)出演の疑惑を、4月5日発売のアサヒ芸能が報じ、波紋が広がっている。
アサヒ芸能は、数年前に新田さんが出演したとされるAVの発売時期やタイトルなどを報じた。新田さんとされる女性の出演している場面について、その様子などを詳細に描写している。
一方で、新田さんの所属事務所は、公式サイトで、新田さんから、「本人ではないことを確認した」「新田恵海本人ではないという結論に至りました」と発表している。
芸能人にAV出演の過去があったと報道することは、法的には問題ないのだろうか。たとえば、名誉毀損などにあたらないのか。プライバシーの問題に詳しい清水陽平弁護士に聞いた。
●AV出演歴は「社会的評価」を低下させるのか?「名誉毀損になり得るには、社会的評価の低下があるといえることが、大前提として必要です」
清水弁護士はこのように指摘する。AVの出演歴を知られることは、社会的評価が低下すると言えるのだろうか。
「『AV出演の過去がある』ということは、一般的には他人に知られたくはない事項だとは思います。ただ、AV自体が違法なものではなく、AV女優という職業が成立していることからすると、社会的評価の低下があるとストレートに言ってよいのかという問題があります。
しかし、多くの人に自身の裸体や性行為を晒すAV女優という職業が、一般的な職業とは考えられておらず、性を扱う職業に対して、嫌悪感を持っていたり、蔑んで見ている人も少なくないのが現実です。
このような社会通念を前提にして、一般人の普通の注意と読み方をすれば、AV出演をしていたと指摘することは、社会的評価を低下させるものであると評価できます」
それでは、名誉毀損にあたるということだろうか。
「社会的評価の低下があるとしても、次の3点をいずれも満たせば、違法性がないものと扱われ、名誉毀損にはあたりません。
(1)公共の利害に関する事実にかかわること(公共性)
(2)もっぱら公益を図る目的であること(公益目的)
(3)摘示された事実が真実であること(真実性)」
今回のケースは、どう考えればいいのか。
「報道が真実でなければ、(3)を満たさないので、違法であるという結論になります。
他方、報道が真実であった場合、(3)は満たしますが、(1)(2)を満たすのかを別途検討する必要があるところです。
このようなゴシップネタについて、(1)、(2)を満たすのかについては議論が大いにあり得るところであり、名誉毀損が成立する余地があると思います。
●プライバシー侵害の可能性もプライバシーという点からすると、どう考えることができるだろうか。
「プライバシー侵害については、真実であるほど、公開されると損害は大きいものになるわけなので、これも成立する余地があります。
しかし、一般的に、プライバシー侵害が成立するために非公知性(公に知られていないこと)が必要だと言われます。
私見では、非公知性はプライバシー侵害の成立要件ではなく、侵害の程度を検討する指標に過ぎないと思いますが、そのように解釈される例はまだそこまで多くありません。
そのため、仮にAV出演が真実であるということだとすると、当該AVが販売されていたものである以上、自ら公開していたとも評価し得るため、プライバシー侵害が成立しないと判断されてしまう余地があるといえます」
清水弁護士はこのように分析していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、Twitterに対する開示請求、Facebookに対する開示請求について、ともに日本第1号事案を担当。2015年6月10日「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル(弘文堂)」を出版。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp