SpaceXは2016年4月8日(米国時間)、昨年6月に起きたロケット「Falcon9」の爆発事故以来、初となる国際宇宙ステーション(ISS)への貨物輸送に挑戦します。カプセル型宇宙船「Dragon」は重量約1.7トン分の補給物資を軌道上に運ぶことになっていますが、その中には、ISSでの実施が予定されている、250以上におよぶ科学実験に必要なものも含まれています。
今回は、先日行われたNASAの記者会見でスポットライトが当てられた、もっともエキサイティングな実験を一部ご紹介しましょう。そのそれぞれが重要な役割を果たして、人類が低軌道の先に進むのに役立ってくれる可能性を秘めています。
宇宙の白菜宇宙飛行士たちは昨年、ISSでのレタスの栽培に成功しました(上の写真)。そして今回、NASAのプログラム「Veggie」では「宇宙白菜」の栽培にも手を広げる計画を立てています。地上で試食した人たちの間では「東京べか菜」という品種が人気で、科学者たちは、この白菜はISSの微小重力の中でも育つはずだと考えています。この宇宙白菜の一部はISSで食される見込みですが、残りは冷凍されて地球に持ち帰られ、くわしく分析されることになっています。
「私たちはランチドレッシングをISSに送る計画にも取り組んでいます」とNASAケネディ宇宙センター(KSC)でこのプロジェクトを率いるGioia Massa博士は言っています。
宇宙における作物の栽培は、火星に向かう宇宙飛行士たちが健康を維持するのに重要な役割を果たす可能性があります。ビタミンCなどの栄養素は宇宙空間で長期間保存することができないからです。
宇宙カビこちらは食用ではありません。アスペルギルス・ニデュランス(上画像の左上)は、ISSに(意図的に)持ち込まれる最初の真菌(カビ)になる予定です。この真菌は、宇宙空間と地球上の両方で使用できる新薬の開発に役立つかもしれません。
真菌は、自然薬品の重要な供給源になりえるものです(、ペニシリンも粘菌から発見されました)。南カリフォルニア大学の薬理学者Clay Wang教授は記者会見で、その作用が不明な二次代謝経路を多く含む真菌は、治療薬にとって未開拓の宝の山かもしれないと説明しました。
Wang教授の研究チームは、アスペルギルス・ニデュランスを宇宙と地上で培養し、遺伝子やタンパク質、代謝物質の観点から2つのグループを比較するつもりです。研究チームは、宇宙環境が新たな化合物の合成をアスペルギルス・ニデュランスに促すのではないか、あるいはもしかすると、医薬品製造のプロセスを速めるのではないか、と考えています。この実験のデータは、宇宙飛行士たちが宇宙で自然薬品を独自に培養するのに役立つかもしれません。
宇宙ステーション「最小の住人たち」の探索同時にISSで生活する宇宙飛行士の数は約3~6人にすぎませんが、彼らのそれぞれが何百万、いや何十億という数の微生物をそこに持ち込んでいます。NASAジェット推進研究所(JPL)のKasthuri Venkateswaran博士は、ISSからサンプルを採取して、ISSの微生物叢が時間とともにどのように進化するのか調べてきました。SpaceXが4月8日に行うロケット打ち上げで、この実験は3度目を迎えます。今回のテストでは、DNA分析を用いて、微小重力や放射線、限られた数の人間の居住が、微生物集団にどのように影響するのかを調べることになっています。
この研究は、長期の有人飛行中に発生する恐れのある有害な細菌の増殖を抑えるのに役立つかもしれません。また「地球とは異なる、人間に有用な微生物が宇宙に生息するのであれば、それをわれわれ人類のために活用することもできます」とVenkateswaran博士は言っています。
筋力低下の防止製薬会社のイーライリリー(Eli Lilly and Company)は、筋消耗の防止に役立つかもしれない抗体のテストをマウスで行うことになっています。ISSの中は地球より重力が弱いので、たとえ1日約2時間運動したとしても、宇宙飛行士たちは長期の宇宙飛行中にかなりの量の筋肉を失います。それは「ネズミの宇宙飛行士」も同様です。イーライリリーは20匹のマウスを使って、効果が期待できる抗体医薬のテストをISSで行い、それがマウスの筋消耗を防止するか確かめる予定です。もし効果があれば、この抗体医薬は、長期の宇宙旅行者だけでなく、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や筋ジストロフィー、あるいは年齢による筋力低下を抱えた地球上の人々にも役立つかもしれません。
DNAコピー機のテスト地球上では、DNAのコピーをつくるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と呼ばれる手法が、遺伝子研究を大幅に容易にしています。そして今、米国のある高校生が提案した「PCRは宇宙でも機能するのか」を確かめるためのテストが開始されようとしています。もし機能するのであれば、宇宙PCRは、宇宙飛行士が長期の宇宙飛行中に経験する遺伝子変化の検出に役に立ちます。、なぜ宇宙飛行士の免疫力は低下しがちなのか、といった謎の解明につながるかもしれません。
ポップアップ・モジュール「BEAM」で宇宙生活そして、もちろん人々の話題の中心は、ISSでのテストが予定されている膨張式住居モジュールです。ポップアップテントのような「Bigelow Expandable Activity Module(BEAM)」は、スペースXの宇宙船「Dragon」の貨物室に詰め込まれてISSまで運ばれます。そして、宇宙ステーションの外側に設置されたあとは、最初の大きさの10倍以上に膨らみます。それでも小さなベッドルームほどの大きさしかありませんが、もしうまくいけば、この技術は人類による宇宙探査の未来に大きな意味を持つことになるでしょう。
今後2年間にわたり、BEAMに取りつけられたセンサーが、モジュール内の放射線量や温度はもちろん、宇宙ゴミからの衝撃可能性などを測定することになっています。宇宙飛行士たちは年に4~6回モジュールを出入りし、1回につき約3時間滞在する見込みです。最初の回を除けば、彼らは宇宙服などの生命維持装置なしで、その中でくつろげるはずです。
5月下旬から6月上旬ごろにBEAMはフルサイズに膨らみ、測定が始まる予定です。もしうまくいけば、今回の実験は、月や火星に送られるかもしれない軽量の膨張式住居モジュールはもちろん、地球軌道上の民間宇宙ステーション(宇宙ホテル)への道を切り開くことになるでしょう。
6 Exciting And Tasty Experiments That May Help Us Get To Mars | Popular Science
Sarah Fecht(訳:阪本博希/ガリレオ)
Photo by NASA Kennedy/Flickr (CC BY-NC 2.0).