栃木県の小1女児殺害事件の判決は、取り調べを録音・録画した映像などを基に被告を有罪と判断した。自白は変遷を重ねており、犯人でなければ知り得ない明らかな事実が含まれていたとも言えず、録画映像がなければ任意性や信用性を認められたか疑問が残る。
検察側は自白調書の他に、多数の状況証拠を積み上げて立証を図った。しかし判決は、最高裁判例が求める「犯人でなければ合理的に説明できない事実」がこれらに含まれているとは言えないと判断した。仮に任意性が認められず調書が証拠採用されていなければ、無罪とされた公算が大きい。
取り調べ録画は裁判員裁判の導入を前にした2006年から一部事件で試行され、現在、裁判員裁判対象事件などでの録画を義務化する法案が国会で審議されている。もともと、密室での取り調べの「可視化」を求める日弁連などが長年、導入を求めていたもので、捜査機関側は消極的だった。
検察は現在、自白の任意性や信用性だけでなく、供述調書のように犯罪事実を直接立証する証拠としても録画を活用しており、録画を根拠に有罪が言い渡された例は少なくない。今回の判決は改めて、検察側にとって録画映像が強力な武器となることを示した。
一方で、課題も表面化した。殺人容疑での逮捕前の取り調べについて、検察は今回、大半を録画したものの最初に自白した場面では実施せず、警察は録画していなかった。弁護側は、録画のない調べで暴行や威圧などがあったと主張して争った。
審議中の法案では、逮捕前の取り調べの録画は義務化の対象外で、捜査官の裁量に委ねられている。本当の意味で取り調べを可視化し、公判での争いを避けるためにも、捜査当局には逮捕前を含む全ての取り調べの録画が求められる。