「どういうことかっていうとさ、消えるらしいよ」。有給休暇の取り扱いに怒るブログのエントリーが、はてなブックマークで話題となった。
ブログによると、投稿者の会社では、年間15〜20日程度の有給休暇が支給される。40日まではストックされるが、それ以上の日数が消化されずにたまった場合、40日を超える部分は消えてしまうのだという。
投稿者の会社では、有給を取りづらい空気があり、上司でも、年に1日〜2日しか取れていない人が少なくないという。「残業=エライとか休日出勤=ガンバッテルとか有給破棄=ヤルキアリみたいなのホントキモいよ」と有給が取りづらい会社の空気を批判、「休めないなら、せめて(有給を)買い取れよ」と主張していた。
このエントリーには、はてブが400近く集まり、「私も今年10日消えた」など投稿者の考えに理解を示す声が相次いだ。一方で、「有給の買い取りは法律で禁止されている」という指摘もあった。
有給休暇を取得しないままでいた場合、その権利が消滅してしまうという運用は法的に問題ないのだろうか。また、未消化分の買い取りは法的に可能なのか。労働問題に詳しい大山弘通弁護士に聞いた。
●有給の買い取りは労基法の趣旨に反する。ただし、OKの場面も「年次有給休暇を取得しないでいた場合、取得する権利は2年で消滅してしまいます。
労働基準法115条は、退職手当を除く賃金その他の請求権について2年の時効で消滅すると定めています。有給休暇を取得する権利も、この定めに服するからです。ですから、積極的に権利を行使しないともったいないです」
だが、投稿者が指摘するように、有給休暇を取得しにくい雰囲気がある企業もあるようだ。せめて、「買い取って」と要求できないのだろうか。
「労働者の方から、一方的に有給休暇をお金に代えるよう要求しても、会社が応じる義務はありません。ただし、社内の制度として消滅した有給休暇を買い取る制度ができているなら可能です。
そもそも会社が労働者の有給休暇をあらかじめ買い取ることはできないのが原則です。なぜなら、有給休暇が労働基準法39条で定められている趣旨に反するからです」
なぜ、あらかじめ買い取ることが認められないのだろうか。
「有給休暇は、賃金を保障しつつ労働者を労働義務から解放し、休息、娯楽や能力開発のための機会を与える制度であり、実際に『労働からの解放』がされなければ、意味がありません。
有給休暇分の金銭と引き換えに働いても『労働からの解放』は実現されません。行政通達(1955年11月30日)は、あらかじめ有給休暇を買い取ることは、有給休暇を定めた労働基準法39条に反するとしています。
ただ、有給休暇を行使しないまま、2年の時効で消滅してしまった時に、会社が消滅した有給休暇相当の金銭を支払うことは違法ではありません。
ちょっと場面が違いますが、退職によって、そもそも有給休暇を消化できない場合に、その未消化有休休暇を買い取る制度が会社にあった事案について、2005年の東京地裁の判決は、裁判所は労働者からの買い上げ分の金銭請求を認めています。
ですから、消滅してしまった有給休暇に限って、会社が買い取りの制度を定めていれば、労働者が買い取りを会社に請求することが可能です」
大山弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大山 弘通(おおやま・ひろみつ)弁護士
労働者側の労働事件を特に重点的に取り扱っている。労働組合を通じての依頼も数多く、もちろん個人からの相談も多い。労働事件は、早期の処理が大事であり、早い段階からの相談が特に望まれる。大阪労働者弁護団に所属。
事務所名:大山・中島法律事務所