■VR空間内を歩き回れる夢のシステム
■「HTC Vive」が持つ可能性と課題について考える
ついに一般ユーザー向けとなるVR対応ヘッドマウントディスプレイが世界市場,そして国内市場で発売となった。どれを買おうか悩んでいる4Gamer読者も多いと思われるが,今回,徳岡正肇氏が,現時点で最も高価な一般ユーザー向けVRシステムであるHTCの「Vive」をじっくり体験したので,その内容をお届けしたい。氏は,VRシステムが持つ可能性と課題を,どう見るだろうか。
さて,ハードウェアが揃ってきたとなると,ユーザーとして直球で気になるのは「どれが一番いいの?」という話である。ガジェットオタクならば全部買うんだよ! と言いたいところだが,VR HMDは気楽に全部購入できる値段ではないため,常識的には,どれか1つか2つくらいを選ぶしかないだろう。
そんななか,2016年4月5日に国内でデリバリーが始まったHTC製の「Vive」は,他社製品と一線を画する要素を2つ抱えた,注目のVR HMDである。
差別化要因その1は,「SteamVR」に正式対応するという点だ。
差別化要因その2は,SteamVRが「ルームスケールVR」(Room Scale VR。部屋いっぱいのVR,くらいの意)という概念を提唱し,StealVR対応のViveが当然のようにそれをサポートしている点だ。
というわけで今回は,Steam大好き人間の一人として,Viveで楽しむVRコンテンツが実際にどんなものなのかを評価してみたいと思う。
また,ここまでやたらともって回った言い方をしていることからも推測してもらえると思うが,筆者はどちらかと言うと,VR HMDというものに懐疑的な人間である。より正確に表現するなら,「VR HMDは大好きだし,VRコンテンツも大好きだが,VR HMDがものすごく売れるという見解に対してはとても懐疑的」という立場である。読者諸賢におかれては,このあたりにも注意して本稿を読み進めてもらえればと思う。
■まずはキャリブレーションしてチュートリアル
さて,なにはともあれ,まずはセットアップである。新ハードウェアは,セットアップも楽しみの1つだ。
リンク:HTCのVR HMD「Vive」日本版を入手。豊富な写真と画面でセットアップまで全解説してみる
機械的なセットアップが終わったら,次はVive専用ワイヤレスコントローラ(以下,Viveコントローラ)のキャリブレーションだ。その方法も先の記事にあるとおりなのだが,実際に作業してみると,とくに難しいこともユーザーインタフェース(以下,UI)上の問題もなく,サクサクとキャリブレーションできた。
キャリブレーションも終わったのでいざゲームを……という前に,まずはValveが用意してくれた「Viveの機能を学ぶチュートリアル」をプレイ(?)してみることにした。
チュートリアルは基本的に,Viveコントローラの使い方や,HMDを装着して歩きまわるときの注意といったところを,Portalシリーズの実験室風な演出でまとめたものだ。「Portal 2」(PC / PlayStation 3 / Xbox 360 / Mac)のプレイヤーにはお馴染みのキャラ「Space Core」(スペースコア)がガイド役を務める,非常に力の入ったチュートリアルである。
Viveコントローラの特徴を,ここで軽く確認しておこう。
Viveコントローラの位置トラッキングは極めて精度が高く,VR空間内において,自分が持っているViveコントローラの位置は,ちょっと恐ろしいくらいの確実性をもって表示される。チープなモーショントラッキングコントローラで生じがちな「画面内でコントローラがぶるぶると震える」「細かい動作をしても画面内で反映されない」といったことはまったくない。むしろ精度が高すぎて別のトラブルの原因になり得るほどだ(※このことに関しては後述する)。
入力系では,円形タッチパッドの完成度がとくに高い印象だ。というのもこのチュートリアルでは,パッドにタッチすると,「どこをタッチしているか」が画面内のパッドに表示されるようになっているからである。
さて,チュートリアルでは,ViveのウリであるルームスケールVRに関しても注意事項の説明がある。
Viveにおける最大の特徴である「VR HMDを装着したまま実際に歩くと,ユーザーの移動がトラッキングされて,VR空間内に反映される」という機能は,「目隠しをしたまま歩かされる機能」と,恣意的に言い換えることができる。
なお,チュートリアルで行えることは,
・VR空間内部の自由な移動
といった,実にシンプルなものである。
たとえばボタン操作で生まれた風船には,それぞれがちゃんと当たり判定を持っており,物理エンジンに基いて相互に干渉する。つまり,風船に風船をぶつければ,ちゃんとVR空間内部でも風船が「ぶつかった」ように動く。
一般的な3Dゲームであれば,こんなことはきょうび「当たり前」というか,「こんなことをいちいち書くな」的な要素である。風船が1万とか出てきて,それがリアルタイムに相互干渉するならともかく,数個の風船で大騒ぎするのは,21世紀のPCゲームとしてはあり得ない。
仕事柄,筆者のVR体験回数(あるいは時間)は,ほとんどの読者よりは多いはずである。それでも今なお,こういった「当たり前のこと」がVR HMDを通して目の前で起こると,独特の驚きと感動がある。
■Job Simulator
チュートリアルが終わったところで,ここからは,ゲームごとに紹介し,またインプレッションをまとめていこうと思う。
まずは,注目のローンチタイトル「Job Simulator」だ。
Job Simulatorでプレイヤーが選べる職業は今のところ「オフィスワーカー」「シェフ」「販売員」「自動車整備士」の4つ。これらは疑似体験空間を発生させる「カセット」としてゲーム内で提供されているので,将来的にパッチやDLCによって選択肢が増えていく可能性は高い。
類型化して語らせてもらうなら,Job Simulatorは,クエスト達成型のシリアスゲームである。
それぞれのステップにおいて,いま何をすべきかはゲーム内部のボードで常に表示されているため,プレイヤーはそれを見て,小クエストを達成していけばよい。RPGなどでよく見る,「伝説のアイテムを作れ」「だがまずは,そのための材料を取ってこい」という,階層化構造である。
と,ここまでであれば実によくあるゲームなのだが,本作においては,Viveコントローラが持つ,異様なくらいに精度の高いトラッキング性能が,十全に発揮されている。
たとえば,朝食を作るためにベーコンを焼くとしよう。
この手の「変なシミュレータ」を遊んだことがあるか,一人称視点のアドベンチャーゲームを遊んだことがある人からすると,このUIは別段珍しくもないと思う。「手」アイコンでドアの取っ手をクリックして,そのドアを「開く」ようにマウスを動かして,ドアを開けるといったゲームを遊んだことがある人(そして「[E]キーを押せば開くんじゃダメなのかよ!」とイライラした人)は,それなりに多いのではなかろうか。
Job Simulatorは,そんな旧来的なUIをそのまま使っている。だが,Viveコントローラのトラッキング精度がゆえに,UIに関するストレスは,ほとんどない。プレイヤーはあたかも「本当にそこにベーコンがあるかのように」ベーコンを手にし,焼いて,お皿に盛りつけられる。Job Simulatorでは各種装置を切り替えるためにスイッチをひねるという動作も多いが,これもノーストレスだ。
もちろん,最初は操作性以外の点に軽いストレスを感じることもある。たとえば厨房であれば「何がどこにあるか分からない」というものだ。ただこれは,いったん厨房の構造を理解してしまえばおしまいである。動作から無駄がなくなり,プレイヤーは「テキパキと仕事がこなせる自分」に気持ちよさと充実感を感じるようになる。はっきり言えば,すごく楽しい。
Job Simulatorに問題がないわけでもない。しかい,本作が抱える「問題」のほとんどは,ゲームの完成度とは別のところにある。
たとえば,Job Simulatorにおいて最も注意すべきことは,Viveコントローラの扱いだ。あまりにもUIが自然で,かつVR空間に「入り込んで」しまえるので,筆者はだんだん「自分の手で作業をしている」ような感覚を覚え始めた。「仕事」に慣れれば慣れるほど,この感覚は高まっていく。
ただ,言うまでもなく,その「台」はVR空間にしか存在しない。そのため,Viveコントローラから手を離せば,現実空間のViveコントローラは万有引力の法則に従って落下する。最悪,破損することもあり得るだろう。
なお,そのうえでJob Simulatorには,ストラップでも解決できない,別種の問題(?)がある。それはルームスケールVRの持つ「リアリティ」の罠だ。
こういった問題に対してはもう,「慣れるしかないですね」以外の言葉がない。そして実際,遠からずユーザーはこの感覚にも慣れるだろう。
このことは,良しにつけ悪しきにつけ,真剣に考えていく必要がある。
ともあれ,Job Simulatorは非常に良くできた作品だ。下手をすると,職業体験型テーマパークはこの手のシミュレータに完全に食われる可能性がある。発育の観点から,児童はVRや立体視を体験するべきではないとされているのが,テーマパークにとっては救いだろう。
■A Chair in a Room : Greenwater
続いて取り上げる「A Chair in a Room: Greenwater」(以下,A Chair in a Room)は,いかにもVR体験向きといった感じのホラーアドベンチャーである。
ゲームの性質上,詳しい内容について語ることは避けるが,本作はルームスケールVRをどう使うかという問いに対して,1つの正解に達した作品ではないかと思う。「部屋の中を自由に歩けるなら,部屋の中にプレイヤーを閉じ込めてしまえ」という発想は,とても正しい。
また,アドベンチャーゲームとして仕立てたというのも,良い選択だ。アクション性が要求されるとなると,どうしたってプレイエリアの外に出てしまったり,ベースステーション(を取り付けた三脚など)にぶつかってしまったり,Viveコントローラを壁にヒットさせたり,足を捻って転倒したりといったことが容易に考えられる。VR HMDとPCをつなぐケーブルの存在も大きな課題となるわけで,いろいろ考えながら進むアドベンチャーゲームは,その点で適している。
とはいえ,技術的な観点からすると,A Chair in a Roomは非常に未熟な作品だ。
また,VRならではの弱点もA Chair in a Roomは露呈している。
この問題に対しては,スクリーンショットを手早く撮影し,それを簡単に閲覧できるようにするといった工夫はあり得る。だがアドベンチャーゲームを好んでプレイするような人なら,それが根本的な解決にならないこともまた,すぐ理解できるだろう。この手のゲームにおいては,メモとメモの関係性を推理したりするのも,楽しみの1つだからだ。
というわけで,A Chair in a Roomはとてもではないが,オススメできる作品ではない。むしろこの作品をもってVRの可能性を議論されても困る,というのが本音だ。
■Realities
「Realities」は,いわゆる360度映像系の作品だ。現実空間を360度撮影したデータから生成されたVR空間の中を,ユーザーは自由に歩き回ることができる。「擬似的な観光」と言い換えてもいいだろう。
Realitiesの面白いところは,一般的には「ある空間を,定められた1点から見渡す」という360度映像に対し,実際にその空間内部を歩き回れるということだ。
この体験は,想像される以上に,衝撃的ですらある。
たとえば,目の前には廃墟と化した階段教室がある。なのでそこを「歩く」とき,頭はどうしてもそこに「階段」があることを意識する。だが当然,現実空間には段差などないので,足は階段を突き抜けていく。
とはいえ,人間の慣れとは恐ろしいもので,この気持ち悪さにはすぐ慣れる。そして慣れてみると,Realitiesが提供する「自由に歩き回れる360度映像」という世界に,一種独特の興奮を覚えるようになる。VR空間内には「パンフレット」も置かれていて,それを拾うと,この空間に関する説明や,特別な写真などを見ることができるというのも,よいギミックだと思う。
現在提供されているのは,欧州にある修道院や発掘現場など,非常に限られているが,それでも,「そこにいる感」は十分に得られる。360度映像によって,ヘッドトラッキングで「見えているものが変わる」というインタラクティブ性があるだけでも結構な体験感は得られるのだが,その場所を自由に歩き回り,詳しく見たいものには実際に顔を近づけることができるというインタラクティブ性が加わるのだから,それも当然だ。
が,その一方でRealitiesのUIはとてもお粗末である。
このように,「自分が歩いて前に進む」UIと,「Viveコントローラ上のタッチパッドで前進する」UIが混在しているため,Realitiesを使っていると,とにかく混乱する。パッドの後退ボタンを押せば視点が大きく後退するならまだなんとかなるのだが,その機能が欠けているため,ただひたすらいらいらさせられるのだ。このあたりはパッチで修正されると思いたいが……。
ともあれ,Realitiesは360度映像とルームスケールVRが組み合わさったときの威力を,これでもか教えてくれるコンテンツである。“VR観光”にも十分使えるだろうが,たとえばもう取り壊すしかない古民家をこの技術で映像的に保存し,追体験するといったことにおいても,相当有益だろう。病院や老人ホームなどにおいて「一時帰宅」を実現するツールとしての可能性もある。
■The Grand Canyon VR Experience
最後は,「The Grand Canyon VR Experience」である。タイトルが示すとおり,グランドキャニオンをVRで体験するという,実に直球勝負な作品だ。
本作をゲームと呼んでいいのかはさておき,操作系は実にシンプルで,右に持ったViveコントローラがカヌーのパドル,左に持ったコントローラが懐中電灯になる。プレイヤーはグランドキャニオンにある小川の上に置かれたカヌーの乗員となるので,これを漕いでいくことで,グランドキャニオンのツアーができるという塩梅だ。
ただし本当に自由に動けるかといえばさにあらず,実際には「漕ぐ動作をすると,D-Padの上が押される」感覚に近い。カヌーは決められたレールの上を移動するだけであり,VR空間内を完全に自由に漕ぎ回れるというわけではなかったりする。
The Grand Canyon VR Experienceの良いところは……良いところは……残念だが,とくにない。「VR初体験というユーザーを驚かせる」くらいの効能は期待できるかもしれないが,筆者はこれに感動できるには,VR HMDをかぶりすぎた。
むしろ本作は,VR作品が陥りがちな問題を,かなりつぶさに見せてくれる。
このことに途中で気づい筆者は,試しに床に膝をつくことで,視線を下げてみたのだが,すると,一気に体験の質が変わった。車を運転する人や,レースゲームや戦車シムの体験が多い人ならすぐ理解できると思うが,視点が下がると,それだけでスピード感がまるで変わるのだ。もちろん,大峡谷を下から見上げることで得られる迫力もまるで変わる。
だがおそらく,これでもなお,作者が意図した視点の高さではない可能性が高い。カヌーの見え方から言うと,もっと低い視点こそが,「本当の位置」なのではないだろうか。それこそ,床にうつ伏せになって前を見る,くらいの。
もっとも,The Grand Canyon VR Experienceが抱える問題は,これだけではない。
しかし,パドルを使って「そのあたりに見える岩や草」を突いても,フィードバックは何もない。水を漕いだときのフィードバックがあるだけに,筆者はこのことに大きな違和感を覚えた。
わざわざ残念なものを紹介しなくても……と思うかもしれないが,実のところ,VR作品にはこのレベルのものが山ほど転がっている。むしろ,The Grand Canyon VR Experience未満の,作品と呼ぶことを躊躇するようなシロモノのほうが圧倒的に多いという説明のほうが,より正確だろう。ある意味でFPSの黎明期〜発展期に無数に発生した泡沫タイトルのごとく,「見た目で一瞬だけ驚く」作品は,実に多い。ジャンルの黎明期とは,そんなものだ。
VR HMDは,高い可能性を秘めている。だがThe Grand Canyon VR Experienceが(図らずも)示してしまったように,その可能性を十全に発揮するためには,優れたソフトが必要だ。VR HMDの性能や,ハードウェアが持つ驚きにだけ頼ったところで,ユーザーは一瞬でその「新体験」に飽きるだろう。ゲームを,ゲームにするためには,技術とノウハウの蓄積が欠かせないのである。
■Viveの持つ大きな可能性と,大きすぎる課題
以上4作品をプレイしてあらためて感じたのは,VR技術の持つ可能性の豊かさである。言い方はひどいが,「これまでもよくある作品だったもの」を,VR空間に持ってくることによって,まったく新しい体験に作り変えられるというのは,デベロッパにとっても魅力となり得るだろう。もちろん,実際にはそんな簡単な話ではないのだが,そういう作品が増えそうだなという予感は強い。
だが,Viveファンからは怒られそうだが,現状において,Viveの持つ可能性は,議論の余地もなく,完膚なきまでに,ほんのわずかな揺らぎもなく,絵に描いた餅である。これはもう断言できる。
Viveは,ケーブルでPCとつながっている。これを無線化するのは,今日(こんにち)の技術ではまだ不可能だ。
ここにおいて,A Chair in a Roomのコンセプトは――実装のお粗末さはともかく――より現実的であることが分かってくる。部屋の中にあるオブジェクトが限られていて,プレイヤーが基本棒立ちで進行するため,ケーブル係にとっては安心感が高いのだ。これがRealitiesのように,ブラブラとランダムに歩くのが楽しいタイトルだと,ユーザーがどこに行くか分からないため,ケーブル係に要求される熟練度は一気に跳ね上がる。
ただ,実のところ,補助スタッフの数はこれだけでは不十分というのが筆者の考えである。Viveそれ自体のUIはかなり優れており,Viveコントローラもたいへん優秀だが,それでも,PC側で何か問題が起こってHMDへの出力が止まったり,上手くHMD側で表示されなかったり,アプリケーションの挙動がおかしかったりという問題が生じた場合,対処する人員も必要だからだ。
つまり,ViveのVRコンテンツを「ベストな条件で,快適に」楽しむためには,ただ広い空間を用意するだけでなく,そのほかにケーブル係とPC係が必要になる。こんなもののどこに現実性があるのだろうか?
解決法はいろいろ考えられる。ケーブルの取り回しについて言えば,ViveのHMD本体から延びるケーブルの先にある接続端子は汎用的なものなので,延長ケーブルを用意して,天井からリールで吊るのがベストの解決策だろう。あるいは,大型のバイブバッテリーと対応PCを何らかの形で背中に背負い,擬似的なオールインワンVRシステムとして扱うというのも,不可能ではない。ここまでやれば,ケーブル係はおそらく不要になる。
ただ,以上の解決策は,いずれも「個人で楽しむ」範囲を逸脱している。ゲームセンターやイベント会場でこそ選択可能なソリューションだ。
もちろん,「だからViveに価値はない」と言うつもりはない。いま述べたとおり,ある程度の台数を確保して展開するアトラクションとして見れば,現状のViveですら,一定レベルの可能性を間違いなく持っている。
注意してほしいのは,筆者がここで言いたいのが,「アトラクションとして使えばVRゲームがペイするだろう」とか,「普及するだろう」とか,そういう話ではないということだ。
ゲームの歴史を振り返ると,かつて最高のゲームはゲームセンターにあった。「スペースハリアー」や「アウトラン」,「ギャラクシーフォース」などといった体感ゲームは,ゲーム側で採用している技術が高いだけでなく,大型筐体による「決して家では得られない興奮」があった。
翻って現在のVRゲームシステム,とくにViveのようなハイエンドのシステムには,アトラクションとして楽しむ以外のマネタイズ手段が見えてこない。これは何も筆者の個人的見解ではなく,「VRは現状,研究開発のためにより多くの予算を必要としているが,マネタイズの手段はまったく見えていない」とまで分析するアナリストが普通に存在している状況である。経営的に言えば,「掛け金だけは上がり続けているが,回収の見込みはない」という,非常に危険な状態と言えるだろう。
だが,かつてのゲームセンターがそうであったように,VRゲームシステムの研究開発で得られた知見が,次の世代のハイエンドゲーム環境を支える技術の1つとなる可能性は否定できない。というか,むしろこのタイミングで“乗り遅れた”場合,次世代AAAゲームを支える技術的ノウハウの柱のひとつを得られないままゲーム開発競争に参加するという,あまり想像したくない状況に陥る危険性もある。
また,どうしても目の前に製品があるVRばかりが取りざたされがちだが,AR(Argumented Reality,拡張現実)技術も見逃せない。VR HMDはARにも活用できるため,AR側からコンテンツやマネタイズが上手く回り始めてから「やっぱりVR HMDは使える」ということになったとき,それからVRコンテンツの技術競争に乗り出したのでは,完全に手遅れである。
とはいえ。
それを踏まえたうえで,過渡期ならではのダイナミズムや,神ゲーとクソゲー(※比率は1:9くらい)が入り乱れる野趣を楽しみたいという場合に,RiftやViveは,とても魅力的な環境となるだろう。冒頭でも述べたとおり,筆者は「そういうもの」が大好きである。
個人的には,これから各種イベントやショップの店頭などで開催されるVRアトラクションで「お試し」してみることを強く勧めたい。
リンク:Vive公式Webサイト
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