●ゲームではなく「VRアクティビティ」
ナムコは11日、VR技術を応用したエンターテインメント施設「VR ZONE Project i Can」を、4月15日の正式オープンに先駆け記者向けに体験公開した。
「VR ZONE Project i Can」は、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)と体感マシンを組み合わせ、新しいエンターテインメントを提供していくプロジェクト。東京都・江東区青海にあるダイバーシティ東京プラザ内(3F)に設けられている。
施設面積約545.4平方メートルの中に大型の体感マシンが並ぶさまは、一見するとゲームセンターのような印象。ただしナムコいわく、これはゲームではなく「VRアクティビティ」。「やってみたい!」という憧れや好奇心を、VRで「本物の体験として提供する」ことを目指すためだ。
通常のゲームと異なる点は「体験型」である点。関係者によると、360度作られたVR映像による視覚情報に加え、VRアクティビティのきょう体や体験者自身の動き、音響や風といった"視覚以外の情報"を演出することで、脳が場所をより錯覚しやすくなり「本当にそこにいる」ように感じられるという。
用意されているVRアクティビティは、ホラーやレーシング、巨大ロボット搭乗体験まで取り揃えた6種。正式開始日は4月15日。2016年10月半ばまでの期間限定オープンで、予約制で運営していく。予約は8日からWebサイトで受付中。なお、全アクティビティで13歳未満の利用が不可となっているので注意したい。
●早速6種類のコンテンツを体験
前置きが長くなったが、早速6種のVRアクティビティと体験した感想を紹介していこう。
○極限度胸試し 高所恐怖SHOW
地上200mの高所に飛び出した細い板の先に取り残された猫を救出するVRアクティビティ。実際のコーナーにも木の板が渡され、HMDを装着したまま、板の先に置かれた猫のぬいぐるみを取ってくることになる。体験時間は約7分。
一見なんてことはない、木の板が渡されているだけのVRアクティビティだが、体験時には命綱を結ぶなど臨場感たっぷり。部屋の奥には送風機が設置され、VR映像と連動して風が吹く仕掛けになっているほか、動きをトラッキングするマーカー付きの手袋、靴に履き替え、板の上での手足の動きが高精度でVR映像内に再現される。自分が細い板のどこに立っているかを認識できることが、このコンテンツの醍醐味。担当者も「足の位置が非常に重要なVRアクティビティ」と語る。
○VR鉄道運転室 トレインマイスター
JR山手線の運転手をVRで体験できるVRアクティビティ。JR東京駅~有楽町駅間を、実際にハンドルを動かして運転できる。体験時間は約9分。
E235系をモデルにした運転席や、東京駅~有楽町間のリアルな風景が、360度のVR映像で楽しめる。運転席内部には2本のシリンダ-を備え、自分で動かしたハンドルの加減速や、VR映像内のレールの継ぎ目と連動して椅子が動く仕組み。ちなみに椅子の表皮材は、輸送機の内装材を手掛ける住江織物のもの。背中越しに感じるシートの感触もリアルだ。
見どころは実際の地図データを元に再現された、ビルが立ち並ぶ東京~有楽町間の風景映像だろう。担当者によると、開発時に山手線の先頭車両で風景を確認したり、運転室内部の映像を作るため鉄道博物館に取材したりしたという。
○ホラー実体験室 脱出病棟Ω(オメガ)
「気がついたら廃病院に閉じ込められていた!」という設定のホラー系VRアクティビティ。プレイヤーは車椅子に縛り付けられた(という設定の)状態から、迷路のような廃病院から脱出を図る。体験時間は約12分で、最大4人までの同時プレイが可能。
操作は椅子に備え付けのレバーと、手に持って自由に動かせるコントローラーで行う。コントローラーはライトとして用い、真っ暗な廃病院のVR映像内では、向けた方向が明るく映る仕組み。HMDはマイク付きで、他プレイヤーと実際に会話しながらプレイできる。
プレイヤーごとにルートが分かれており、プレイヤーAが道順を伝え、プレイヤーBが教えられたルートに沿って特定の操作をする、といった協力プレイも魅力。かなり過激な暴力シーン、グロテスクな映像が流れるので、苦手な方は要注意。試遊時、筆者は最終的にゲームオーバーになり、VR内で首を切られて終了した。
○急滑降体感機 スキーロデオ
雪山の頂上から滑降し、最速タイムでゴールを目指すVRアクティビティ。スキー板上のマシンに載り、実際に体を動かして操作する。体験時間は約6分。
スキー板状の体験マシンがVR映像と連動し振動するほか、顔の前に備えた送風機で滑降時の風を体感できる。HMDはマイク付きで、息を吹きかけると、VR映像内で吐いた息が白く表示されるのが面白い。雪山のVR映像は若干単調だが、かなり高い場所からの滑降開始となり、非常にスピード感あるアクティビティだ。
○スポーツ走行体感マシン リアルドライブ
頭に装着するHMDではなく、ドーム(半球)型スクリーンを採用したVRアクティビティ。鈴鹿や筑波のサーキットコースに対し、ハンドルやアクセルペダルなどを使い、現実に近い形で操作できる。体験時間は約14分。
上部に設置された大型プロジェクタから、180度の半球スクリーンに映像を投映。椅子にはウーハーを内蔵し、コース外に乗り上げた時やコーナリング時の振動を再現する。マシンの形状としてはバンダイナムコエンターテインメントのアーケードゲーム「機動戦士ガンダム 戦場の絆」(初期型)と似ている印象だが、視界いっぱいに広がる映像で没入感が高まる。
○VRシネマティック アトラクション アーガイルシフト
巨大ロボットを操縦し、空中で敵ロボットと戦うシューティング系VRアクティビティ。体験時間は約7分。
担当者によると「『美少女と巨大ロボに乗る』という男性の夢を実現した」コンテンツ。敵への攻撃や搭乗しているロボットの動きに合わせ、前後とZロールで椅子が動く。
原案・監修は、バンダイナムコエンターテイメントのVRコンテンツ「サマーレッスン」を手がけた原田勝弘氏だ。しかし、女子高生の家庭教師を担当する「サマーレッスン」では、どうしてもユーザー自身がHMDを装着している感覚が邪魔になるという。
「アーガイルシフト」ではこれを踏まえ、VR映像内でもHMDに相当する装置を装着している設定とし、パートナーとなる少女が目の前で「見えますか?」と手を振るシーンからスタートするようになっている。また、実際に座る椅子や、椅子に備えられた操作用トリガーも、VR映像と同じとし、現実とVR映像との違いをできるだけ減らす工夫をしたとのこと。
世界観設定・シナリオは「攻殻機動隊」シリーズのProduction I.G、監督は「APPLESEED」の荒牧伸志氏、メカニックデザインは「機動戦士ガンダム00」の柳瀬敬之氏、キャラクターデザインは「鉄拳」の川野琢嗣氏と、豪華すぎるスタッフ陣が参加。ファンならぜひ一度体験してみて欲しいコンテンツだ。
○「VR ZONE Project i Can」施設概要
最後に、施設外用と利用情報を紹介していく。「VR ZONE Project i Can」の利用には「バナパスポートカード」と呼ばれる有料カード(300円)が必要となる。同カードはバンダイナムコのサービスを利用する共通IDと紐付き、ゲーム履歴の確認やアイテムの入手などが可能なユーザー認証カードだ。
6種類のVRアクティビティには、それぞれ体験料が設定されている。バナパスポートカードに独自の電子マネー「バナコイン」をチャージし、体験時に支払うことで、各アクティビティを利用できる。体験料は700円(651バナコイン・施設内チャージ時)からで、詳細は下表の通り。
全体的な感想として、VRアクティビティではかなり「リアル」に近い感覚が楽しめた(「高所恐怖SHOW」や「脱出病棟Ω」では冷や汗が出てしまうほど)。映像が細部まで丁寧に作られているほか、遊園地のアトラクションに見られるような、聴覚や触覚といった視覚以外の要素で高い臨場感が味わえる。一方で、乗り物酔いしやすい筆者は3コンテンツほど試したのち、強めの「VR酔い」に見舞われた。通常の遊園地アトラクションなどと同じく、自分の体調を踏まえながら楽しむのが良いのだろう。今後「VR ZONE Project i Can」では体験者の声を反映していくとのことだが、例えば「スキーロデオ」では周囲の温度を低くするなど、より感覚に訴え、リアル感を高める施策に期待したい。
(村田奏子)