今回は、昨年、1997年の自らの凶行を振り返る手記『絶歌』(太田出版)を匿名のまま出版し、多くの非難を浴びた「神戸児童連続殺人事件(1997年)」の犯人・元少年Aを巡る『週刊文春』の報道をテーマに、元文春編集長である花田紀凱氏と国際暗黒プロデューサーの康芳夫氏に話を聞いた。かつて未成年の凶悪犯罪に対し「野獣に人権はない」と実名報道に踏み切った花田紀凱は、一連の報道をどのようにみるのか!? 平成の怪物・少年Aを「ただのチンピラだ」と斬り捨てる昭和の“虚業家”康芳夫が、その視点に迫る。
■コンクリート事件で実名報道を決断した花田氏
――先日『週刊文春』が元少年Aの写真を掲載したという報道については、どう思われますか?
花田紀凱(以下、花)「僕が『週刊文春』編集長の時に、東京の足立区で『女子高生コンクリート詰め殺人事件』があったの(1989年)。高校生たちがね、女子高生を監禁した後、殺害したという。その時に、殺された少女の写真は報道で出るわけ。でも、加害者の少年たちは少年法で守られて、なんにも出ないっていうので、僕は“おかしいじゃないか”って思って『週刊文春』で実名を出したの。その時ある新聞社にインタビューされて“野獣に人権はない”って言って問題になったんですけどね。要するに“一方的に被害者だけ晒されるのはおかしい”ということでやりました」
花田編集長の決断は、少年法を巡る問題として、当時の日本中を巻き込むスキャンダルとなった。
花「それははっきりいって“少年法が今の時代にそぐわない”ということだと思いますよ。あれは戦後、かっぱらいだとかが横行した時に、そういう“少年たちが更正するために17歳以下は名前を出さない”ということで作られた法律なの。その後いろんな重大事件が起こった時に、どこまで適用されるかっていうのは難しいところなの。だから僕らは“もう一回少年法のことを考えた方がいいよ”という意味で出したわけです。それから多少改正はされてるんだけど、根本的なところはされてない。あれはやっぱりもうちょっと論じた方がいい話題ですね」
――今回の掲載でも、やはり問題になっているのは少年法についてです。
花「少年Aは『絶歌』という本を書いたし、ブログで発信してるんでしょ? だから“出されてもしょうがないんじゃないの?”とは思いますね。でも、今回はまだ目線を入れてましたよね。あれは“ヒヨってるな”って思いました。ホントに覚悟があるんだったら、名前も出すくらいのことは考えられたでしょうね。あるいは少なくとも目線は入れないとか」
■現在の元少年Aと出版について
――確かにあの目線は不思議な感じがしました。
花「でもね、この前太田出版の社長の岡(聡)さんに会ったの。そうしたら、“けっこう今は反省して素直な少年なんだ”と。“でも次々と報道されちゃうから、対抗するみたいな気持ちになっちゃうんでね。もうちょっと触れないで放っておけば違ったんじゃないか”と言ってましたけどね……でも、もう出版しちゃってるからねえ」
――出版して報酬を得ていますから、“それを放っておいてくれ”っていうことを版元の人間が言ってもどうかと思いますね。
花「そうだよね」
康芳夫(以下、康)「今度の少年Aの問題は、昔は花ちゃんのライバルと言われていた見城くん(見城徹幻冬舎社長)のやりすぎもあるな」
花「いやいや、僕は芸能の方はやらないからライバルなんて言えないですよ」
康「やっぱり今度の『絶歌』の問題は、彼のプロデュースということだしね」
花「だけど、もし“少年Aで本出さないか?”って言われたら、形はどうなるかわからないですが、やる方向になるでしょうね。ああいうのを捕まえておいて“少年Aを守るために何もやらない”っていう選択は、やっぱり編集者としては難しいよね」
康「昔、彼が首を切って何十年前ね、声明書を出したでしょ? あの時僕は“日本にも遂にドストエフスキーの主人公が出てきた!”って思ったの。でもね、あの本を読んだら少年Aってただのチンピラだと思ったね。やはり見城くんはやりすぎたと思う」
――凄くいびつな状況ですよね。あんなに有名な人が匿名で収入を得るっていうのは、日本ならでは外国では考えられない状況だと思いますが。
花「もう少年じゃないしな(笑)。この前テレビの『そこまで言って委員会』でね、“花田さんだったら、名前を出しましたか?”って聞かれちゃったんだけど、すぐ“出します”とも答えられなかったね。やっぱり迷いますよ。一緒に出演していた角田隆将さんも迷ってましたよね。“社会的に発信してるから出しちゃう”と簡単に言うのも難しいんだよな。だから悩んだ挙げ句、新谷は目線を入れたんでしょうけど、僕だったらどうしただろうね。
くだらない話だけど、昔、こういうことがあったの。三浦和義が逮捕された時にね、三浦がまだ元気な頃にスワッピングパーティに出てて、8人ぐらい裸で並んでる写真で撮っていたのよ。三浦のチンポも出てるわけ。これを『エンマ』ってグラビア誌でそのまま出すかどうか議論したの。“ここを黒くしろ”だとか、いろんな意見があったんだけど、“鬼デスク”と言われた石山くんって編集者がいて、“花田さん、これが三浦の《悪の原点》ですよ!”って言ったの」
一堂(笑)。
花「それで“そうだな!”ってことになって、オチンチン全部出したの。そうしたらすぐ告訴されてすぐ負けた(笑)」
一堂(笑)。
花「弁護士も“これは上訴してもムダだ”って言うんでそのまま50万円払った(笑)。当時だから安いからね」
■「WiLL」が飛鳥新社に電撃移籍
康「今回の黒幕は見城くんだけど、彼の最近の動向はどう見てる? 安倍内閣のブレーンをやったり、テレ朝の監査委員をやったりしているね」
花「あの人はそういうのが好きなんだよなあ」
康「君だったら受けないだろうなあ、君は本当の野次馬だから。彼はテレ朝の『報道ステーション』の古館外しも、彼がやったと言われているね」
花「そういう噂になってますね。まあ……文藝春秋出身の人はそういうふうにはならないでしょうね」
――最後に、本サイトのテーマであるオカルトについて花田さんにも少しお聞きしたいのですが……。
花「オカルト現象か……難しいねえ。僕は扱ったことはないね」
――康さんのやっていた国際ネッシー探検隊や、オリバーくんといった企画についてはどうお考えでしたか?
花「……(笑)」
康「それはもう、彼には全部バレてるからなぁ(笑)。馬鹿にされてますよ。ただ、馬鹿にされたらされたで僕にとってはなんの問題もない。『週刊新潮』や『週刊文春』には散々やられましたけど、僕にはなんの損害もないよ。友情とビジネスは別だ。ただ花ちゃんはこの『WiLL』で成功を収めたけど、『週刊文春』と同じで、僕はもう少しエクステンションを広げていった方がいいと思うんだよね。本誌の『文藝春秋』と同じでね」
花「そうですね、3月26日売りまでは今の会社(ワック・マガジンズ)で出すんですけど、4月26日売りからは飛鳥新社で出すんですよ。理由はいろいろあるんだけど、全部編集部丸ごと電撃移籍っていうね」
康「ああ、私も土井(尚道飛鳥新社代表)から聞いたけど、それでいいんじゃないですか? 結果論として君が土井のところに行くのは、土井もおかしな男だけどいいと思う。まあ僕の元ポーカー仲間だけどね(笑)。たいしたタマだよ、なにしろアレには後ろがいないわけだからね。ずっと一人で飛鳥新社をやっているんだ。何年かに一回ミリオンセラーを出すんだけど、後は眠ってる(笑)。もしかしたらその方が花ちゃんがやりたいことができるかもしれないしね。ただ、土井のところに行っても鈴木(隆一ワックマガジンズ社長)のところにいても、どちらにしろ雑誌のエクステンションは広げた方がいいと思うね。『WiLL』もそれなりにいろんな記事は取り上げてるけど、書き手がリベラル右派にいないんだよね」
花「いないんだよねえ……」
康「それを花ちゃんが見つけてね。文春も佐藤優とか池上彰とか、本来は文春になじまない男たちを起用して今やメインになりつつあるけど、やはり部数は落ちるよ。花ちゃんのところもあまり落ちることはないだろうけど、将来的には飽きられてくるだろうからね」
花「はい、ありがとうございます。これ(『WiLL』)も11年目だから、マンネリにもなるんで、ひとつ環境を変えてやろうかと思っています」
50年という長い親交の末に実現した康芳夫・花田紀凱の暗黒対談企画。果たして、一見別の道を歩んできたこの2人が、今後運命ともにするという《奇跡》は起こるのか? ともに70歳を超えて未だに《全方位攻撃型》という恐るべき共通点を持つだけに、その可能性も、その真逆である可能性も捨てきれないだろう。老いてなお日本を挑発し続ける2人の“親しき仲にも……”のその先に、大いに期待したい。
(文・写真=福田光睦/Modern Freaks Inc.代表)