「買い物は好きですか?」。そう問われたら、大多数の女性が“YES”と答えるだろう。街に、そしてネット上に、女性の購買意欲をそそるアイテムはあふれており、消費において女性が担う役割は大きい。しかし、昨今は“断捨離”や“買わない、持たない生活”に焦点が当てられることが多く、買い物が悪癖として扱われることが増えた。身近なことなのに難しく失敗も多い買い物とはいかにあるべきか? そんな疑問に解決のヒントをくれる本に出会った。
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良いものをいかに面倒なく、リーズナブルな価格で手に入れるか。『買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて(文春文庫)』(山内マリコ/文藝春秋)では、著者の、買い物に関する脳内試行錯誤とエピソードが65のエッセイで語られている。
本書は『週刊文春』の2014年4月10日号から2015年8月6日号に掲載された人気連載「お伊勢丹より愛をこめて」に書き下ろしを加え、文庫本1冊にまとめられたものだ。ひとつのエッセイは2~3分で読めるので、仕事の合間や通勤時間などちょっとした時間のすき間にも気軽に読むことができる。エッセイひとつひとつに添えられたカラーの挿絵も目を楽しませてくれる。
買い物が大好きで、「生きることは、買い物することである」と言い切る著者の“もの”を見る目は、もの選びの厳しさと愛情に満ちている。本書でとりあげられている、著者のお眼鏡にかなった“もの”たちは、最新トレンドから地方のお土産品にいたるまで網羅されており、お買い物好きには垂涎もの。
そのラインナップは、ハイブランドの財布、靴に始まり、ファストファッション、きもの、高級化粧品、ドラッグストアコスメ、入浴剤、タオル、加湿器、ロボット掃除機、4Kテレビ、ヴィンテージ机、沖縄の焼き物、富山の伝統工芸アクセサリー、アート作品、手帳、ジーパン、レインウェア、麦わらスリッパ、コーヒー…と幅広い。
流行に流されるのではなく、長く愛せるものと出会うために常にアンテナをはっている著者の物選びの セオリーは、買い物世代の女性であれば学ぶところが多い。
しかし、著者のお買い物は単なる消費では終わらない。新しいものを買うということは、古くなって使わないものが出てくるということ。新しいタオルを買って家中のタオルをリニューアルしたときには、使い古されたタオルたちの処分方法として、殺処分寸前の犬猫を保護する非営利団体に寄付するという手段を選ぶ。
買うのは簡単だけど、捨てるのは難しい世の中。だからこそ、捨てずに上手く処分できたときの爽快感は、セールでいい買い物ができたときの喜びに、勝るとも劣らないのであった
この言葉からも、著者のお買い物が単なる目先の衝動ではないことがわかる。手に入れたときから手放すまでの“もの”対する一貫した思いが表れている。
“もの”が売れないといわれる時代に、“もの”であふれた環境で生活する私たち。考え、悩み、選び、学び、時に失敗を繰り返しながら長く付き合えるパートナーを求めて“もの”を買う。“もの”も人も出会いは一期一会だから、大事にしたい。そんな真摯な気持ちでお買い物に向き合ってみることも、たまにはよいのかもしれない。
文=銀 璃子