「店長、来月いっぱいでバイト辞めたいんですけど」、「何言ってんの、人手不足なんだから無理に決まってるじゃん」、「でも授業が忙しくなっちゃって」、「だったら君の後に働く人を見つけて連れて来てよ。そしたら辞めていいよ」――バイトの現場で交わされる会話であるが、実はこの「次の人を見つけたら辞めていい」というのは、最悪のブラックワードなのだ。
友達に声をかけても、普段からこのバイトのキツさを君から聞いているから誰も「次の人」になってくれようとはしない。結局君はバイトをいつまでも辞めさせてもらえなくなる可能性も出てくる。「教えて!goo」にも、「退職を報告したら上司からこう言われました」といった相談が寄せられている。
相談者は、パートを退職するため期日に余裕を持って上司に報告したそうだが、「辞める人は次見つけるのも仕事なんだよ」と言われたとのこと。その場ではお茶を濁したそうであるが、「次の人見つけなくてもいいですよね?」と質問している。
■次の人見つけるのは会社の役目
この疑問に対し、一様に「そんな言葉に従う必要はない」といった旨の回答が寄せられた。
「次の人を見つけるのは上司の仕事。上司の仕事を取っちゃいけませんな」(hagecyabinnさん)
「会社がすべき義務というか仕事を、勝手に従業員に押し付けようとしているだけですね」(lv4uさん)
「一般的にはそんな義務はないでしょう。(中略)…(次の人を)探すつもりがないことをアピールしといた方が良いかも知れませんね」(zzheiさん)
やはり、辞める人が次の人を見つける義務などはないようだ。しかし、次の人が決まらないうちに辞めることになれば、会社には迷惑がかかるだろう。法的に何か責任を取らなくてはならなくなるのだろうか。
■労働者には辞める自由がある
実は、そのように思わせるのが相手側の狙いなのだ。その証拠に、「次の人を見つけたら辞めていい」という言葉は法的な知識や経験の少ない学生に対して使われることが非常に多い。これは、単に学校の友達を紹介して欲しいという理由だけではなく、「ああ、辞めたら迷惑がかかるんだ。責任を取らなくちゃ」と思わせるよう、バイトを辞めさせないよう誘導している可能性もある。このように労働者が辞めようとする場合の法的問題について、山崎法律事務所の山崎佳寿幸弁護士に話を伺った。
「『次の人を見つけてきたら辞めてもよい』という条件をつけることは、労働者が労働契約を脱することを欲する場合に、これを制限する手段となり得ます。従って、法律的には無効と言えます」
やはり、この言葉には何の効力もなかった。これを持って、辞めることを引き止めたり引き延ばしたりすることはできないのだ。
「民法627条1項の規定によれば、たとえ雇用主が拒否しても、労働者の退職の意思が雇用主に到達すると、その到達した日から2週間を経過することで、退職の効果を生じることになります」
けれど、こんな最悪のブラックワードを使う店長なら、「辞めるなんて一切聞いてない」と、しらばっくれるかもしれない。
「そこで、『他の人を見つけるまでは辞めさせない』という雇用主に対しては、配達証明付内容証明郵便で退職の意思を伝え、その郵便が雇用主に到達して2週間を経過したところで、退職の効果が生じたものとすることができます」
なるほど、これなら確実だ。ただし、最後に1点だけ注意をしておきたい。上記はあくまで期間の定めのない労働契約の場合である。もし君が、何年何月何日までという期限を決めて働くことを契約してしまっていたとしたら、やむを得ない理由がある場合や労働条件が約束と違う場合、1年以上継続して働いている場合などを除き、期限前に勝手に辞めることはできないので、まず専門家に相談してみよう。
(長澤正嘉)
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