アベノミクスの目標数値の一つである2020年度「女性管理職の割合30%」達成。その裏で男性管理職や役員など、幹部層の価値観を揺るがす動きが始まっている。数値目標を達成するには「管理職になりたくない女性」と「旧態依然の男性マネジメント」が最大の障害になっていることに気づいた企業がメスを入れ始めたのだ。
女性活躍推進の課題について聞いた日本生産性本部の調査でも、最も多かったのは「女性社員の意識」(81.5%)であり、続いて「管理職の理解・関心が薄い」(50.1%)という結果が出ている。
(※日本生産性本部「第6回コア人材としての女性社員育成に関する調査」を参照)
いち早く対策に乗り出した大手企業3社の取材によって、これまでの女性活用と大きく異なる点が見えてきた。こうした取り組みの本当のターゲットは、女性側ではなく男社会を生き抜いてきた昭和頑固世代の男性管理職や役員だったのだ。制度の充実や女性への啓発はすでにどの企業も取り組んでいるが、フェーズは次の段階へ進む。企業内の大半を占めてきた男性側の意識改革に大きく動き出した。
「憧れるような管理職が身近にいない」。ロールモデルを求める女性の声は多いが、身近な男性管理職はその目に映っていないのだろうか。
マネジャーになりたい男性60%、女性33%――。この社内調査結果にショックを受けたのは日本GEの当時の人事部長、木下達夫氏だ。
「女性の希望者が男性の半数しかいないということが正直ショックでした。理由は『自分にできるか自信がない』あるいは『マネジャー職が楽しそうに見えない』というもの。身近にロールモデルがいないことに加えて男性上司がおもしろさを伝えていないことも原因の一つです。実際に現場の管理職の中には『女性の活躍はサポートしたいが、自分の部下としてはちょっと』『男性部下のほうが仕事を振りやすい、言いやすい』といった発想が古く頭の固い上司もいます。このギャップを埋めるには女性と上司の意識を変えていく必要があると考えたのです」
日本GEの総合職の女性社員比率は22%。管理職比率は14%、役員クラスは23%と、国内の一般基準からは決して低くはない。だが、同社の20年管理職比20%の目標を達成するには、女性社員全体の底上げが必要だ。そのために実践しているのが、上司の自覚と部下の育成を促す取り組みだ。非管理職の女性約400人から上位10%の40人を選抜。人事と上司が協力して3年後のマネジャー育成を目指すが、そのプログラムの一つが候補の女性社員と上司がペアで参加する研修だ。
2015年2月24日。初めての研修が女性部下7人と直属上司7人(うち女性2人)を集めて開催された。部下と上司に分かれた午前中のセッションで早速見せられた先の社内調査結果に、上司は衝撃的なパンチを浴びた。昇進を希望しない女性の理由として「365日24時間働かなければいけない」といった仕事と生活の両立の不安が披瀝された。
「女性が思うワークライフバランスの不安に対して、マネジャー自身がロールモデルを示しているかが問われます。マネジャー同士で解決策を探り、最後に全員がアクションプランを出すところまで徹底して議論してもらいました」(木下氏)
さらに参加者の部下と上司が描く“ステキな上司”像と部下から見た現実の“惜しい上司”を発表。「小さなウソやごまかしがばれていると気づいていない」「寝ていない、忙しいと頻繁に愚痴を言う」と部下からの鋭い指摘が浴びせられる。
「部下からすべて見透かされていることに気づき、上司たちは冷や汗の出る体験を味わったようです」(同)
一方、女性側でも男性上司との距離感をうまくつかめず、アピールしきれていないという悩みもあった。別室の女性部下向けのセッションでは、同社の30代後半の女性マネジャー3人を呼んだ車座での質疑応答タイム。「営業職は男性の多い職場。遠慮しませんか?」との質問に「いいのよ、武器にしちゃえば。おじさんなんか転がしておけばいいのよ」と先輩女性が貫禄の回答。女性たちの本音トークは盛り上がった。
さらには、部下と上司でそれぞれ人生のシナリオプランを書き、達成のために必要なサポートも相談する。
「これは2人の約束書。女性が書いたプランの説明を受けて『賛成だ。僕も協力する』というようなコメントを上司は付箋でつけて寄り添う」。
そして、軽くアルコールも振る舞われる最後の交流会では、上司たちには「女性部下の“ド自慢”大会」が求められる。交代で、自分の部下の素晴らしい点を参加者全員の前で1分間褒め称えた。
日本GE独自に始めた初の研修は大成功に終わった。木下氏は「参加した女性は意識が上がり、前向きに頑張ろうと言ってくれた人が多い。上司側からは好評だったものの、『気持ちがついていくのに結構大変だった』という声も」と告白した。