2015年度の日本マクドナルドホールディングスは、売上高1894億円、営業利益マイナス234億円、当期純利益マイナス349億円という、上場以来最悪の業績発表となりました。
このような報道に接しながらも、筆者は以下に述べる理由にもとづき、16年度のマクドナルドは赤字経営を克服して黒字化すると予想しております。
意外に思われる向きも多いと思いますが、マクドナルドの決算期は毎年1~12月の1年間ですが、第1四半期も経過していない3月下旬の時点(本稿執筆時)おいて、「16年度のマクドナルドは通期で黒字」と断定することには躊躇がないわけではありません。しかしながら、これから述べる下記の要素を踏まえるならば、マクドナルドは極めて高い確率で16年度は黒字決算で収支することがわかるのです。
●食品不祥事だけではなかった?人気が凋落した理由
まず、近年のマクドナルドの不人気について少し言及したいと思います。
かつてマクドナルドでは、現場の店員をかたちだけの管理職(店長)にしてサービス残業をさせ、過重な労働を強要するということがありました。これによって「マクドナルドはブラック企業」との評判がたちました。今どきの小売業、とくに外食産業において、このような評判は店舗の集客力を一気に低下させます。
こうした要因も影響し、14年夏に起きた消費期限切れ食品使用問題では、直接の不祥事を起こしたのはマクドナルドではなく中国・上海福喜食品であったにもかかわらず、世間はマクドナルドに同情しませんでした。続いて15年に発生したフライドポテトに人の歯が入っていたという事件においても同様でした。
さらに悪いことに、釈明の記者会見に経営トップのサラ・カサノバ社長は現れず、2人の執行役員に記者会見を代行させました。07年、アパホテルが運営する京都市内の2つのホテルで耐震強度の不足による使用禁止の勧告を同市から受けたことについて、名物女性社長の元谷芙美子氏が涙ながらに謝罪をし、報道陣の前で深々と頭を下げた事例とは対照的です。
本来であれば、カサノバ社長も元谷社長と同じように矢面に立つべきでした。いったん矢面に立った人間というのは、それなりに一目置かれます。また、経営トップはほかの幹部や従業員の代わりに恥をかいたり矢面に立ったりすることも重要です。にもかかわらずカサノバ社長は矢面に立たず海外出張に出かけました。これでは、世間に次のようなイメージを植え付けてしまいます。
「これはマクドナルドの体質なのだ。つまり、上に立つ人間が厄介で面倒なことを強制的に下の人間にやらせるのだ。店長の酷使しかり、社長の記者会見しかりだ」
最終消費者を顧客とする小売業やホテル業というのは、一般大衆の人気と気まぐれによって左右される事業です。そういう点で、当時の対応は「人の噂も75日」という本来ならば短期間で終息するはずの食品不祥事の問題をこじらせてしまったように思えます。
こういう局面では、会社の評判を落とすようなことを防ぎ、耐えるしかありません。それが15年のマクドナルドであったように思われます。
では、そのようなマクドナルドがなぜ黒字化すると推測されるのでしょうか。理由は以下の3つです。
●黒字化する根拠(1):既存店の売上高の回復
16年の日本マクドナルドにおいては、既存店の売上高に回復の兆しが見受けられます。1月の既存店売上高は、対前年比で35%上昇しました。もっとも、昨年1月には異物混入騒ぎがあり、対前年比で売上高が38%も減少となりました。
仮に14年1月の既存店売上高を100とすれば、15年1月の売上高の水準は62{=100×(1-0.38)}程度の低水準です。これが16年に35%上昇したといっても、14年1月の売上高を100とすれば83.7の水準です。なぜなら、15年の売上高は14年の100に対して62であったので、この35%増といえば83.7(=62×1.35)だからです。
したがって、14年1月との対比でみれば、今年1月の既存店売上高は16.3%の減少(=100-83.7)を意味します。
しかし、たとえそうであったとしても、前年比35%増というのは、はっきりとした回復の兆しを示しているといえます。また、2月は前年比29.4%増になっており、やはり明確な回復の兆しが見えます。
こうして、長く不調が続いたマクドナルドでは、16年に入って不調が解消する兆しが見えてきました。これが、16年にマクドナルドの黒字化が期待できるひとつ目の理由です。
●黒字化する根拠(2):不採算店舗の減少
次に注目したい事柄は、15年においてマクドナルドが店舗数を減少させたことです。同年初には3093店あった店舗が15年末には、2956店にまで減っています。
減少させた店舗の多くは、不採算店です。たとえば東京都内では、原宿表参道店、赤坂見附店、八重洲通り店、新宿大ガード西店などは立地に恵まれた店舗ではありましたが、その半面で家賃負担が重く、ほかの店舗に比べて損益分岐点の高い店舗でした。
15年のマクドナルドは、そのような重荷になるような店舗を手放し、かなり身軽になりました。つまり、この1年間で黒字経営を実現するためのハードルを下げているのです。したがって、会社全体の売上高が下落しても、採算のとりやすい損益構造に転換されているはずです。これが、黒字化が可能だと判断した2つ目の要素です。
●黒字化する根拠(3):為替の影響
さらに16年に入ってからの為替の影響も重要です。マクドナルドは原材料の多くを輸入によって賄っていることもあり、これまで為替相場が円高になったときは業績を向上させ、円安になったときには業績を悪化させるということを繰り返しています。これを示したのが以下のグラフです。
まず、06年度は1ドル120円近い円安で推移しましたが、このときは経常利益が57億円の水準でした。これが07年度になると、いったん期の途中で1ドル120円台を超える円安となるものの後半は円高となり、1ドル110円程度にまで円が上がりました。このように円高に振れたことで07年度の経常利益は156億円となり、06年度の57億円を大きく上回る利益水準となりました。
さらに08年度から11年度にかけては、1ドル110円から1ドル80円という超円高の水準を迎えますが、これに呼応するかのように経常利益は123億円(08年度)、232億円(09年度)、271億円(10年度)、276億円(11年度)と推移し、会社の最盛期を迎えます。
ところが、12年の秋にいわゆるアベノミクスが始まると、同年度においては経常利益が237億円になり、日本マクドナルドは9年ぶりの減益となります。さらに、13年度、14年度と円が安くなるにつれ、業績の悪化が顕著になります。
このように、マクドナルドは為替相場の影響を受けやすい企業であり、しかも円高が有利で円安が不利な会社であることがわかります。
以前、100円マックという商品が発売されましたが、そのような果敢な商品戦略なども、1ドル80円程度の超円高の時期だからこそ採りえた戦法でした。したがって、15年のように1ドル120円程度の円安の状況においては、強気の戦略を採りえないのです。
最近におけるマクドナルドの業績の急激な悪化には、前述した消費期限切れ食品の使用や異物混入のほかに、為替相場の変動が影響していることは紛れもありません。
ここで、16年に入ってからの為替相場の動向をみてみると、年初には1ドル120円程度であったものが、本稿執筆時点(3月末)においては1ドル112円程度にまで円が高くなっています。このような円高に振れるという為替相場の変動は、マクドナルドの業績を押し上げるように作用します。
以上3つの要因は、マクドナルドにとっては強力な追い風です。
ところで、16年3月3日、マクドナルドでは正社員の基本給を4月から平均2%引き上げるということが報道されました。これは、同社が積極的に人材確保を行うというだけでなく、既存店の売り上げの回復があればこそ、採り得る方策だと読み取ることができます。
以上に基づき、筆者はマクドナルドが16年度に黒字化する可能性が高いと判断しています。
(文=前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表)