「親から、俺の成人までにかかった費用を全部返せと言われた。払いたくないよ!」。ネットの掲示板にこんな投稿が書き込まれました。
この投稿に対しては、「俺は大学院の学費だけ返して縁切った」「払ったら老後の面倒はみなくて済む」と「払う派」がいる一方で、「親は、金がかかることを分かった上で子どもを生んでるんだから、払う必要はない」という反応もあり、意見は分かれています。
子どもがその誕生から独立するまでに親が支払った教育費などは数百から数千万円にものぼるでしょう。親から支払いを求められた場合、支払わなければならないのでしょうか。関範子弁護士に聞きました。
● 多くの場合、親から子供への「贈与」
「子どもを、義務教育である小学校、中学校に行かせることは、親として当然の義務です。高校以上は必ずしも義務ではありませんが、子どもに返還を請求しない前提で学費を出している親が多いのではないでしょうか。
親権者である親が、未成年の子供に対し、教育する権利を有し、義務を負っていることは民法820条により認められています。また、親が未成年の子どもを扶養する義務は、成人後の子どもが自分の親を扶養する義務よりも強いものです。親は未成年の子どもに対して『自分と同程度の水準の生活をさせる義務(生活保持義務)』があるとされています。
では大学や大学院などの学費の返還を請求された場合、どう対応すればよいのでしょうか。
その家庭の生活水準に照らして、親がかなり高額の費用を出したと考えられる場合は、事前に黙示の金銭消費貸借契約が締結されていたと見る余地があるかも知れません。そうなると、子どもは返還する必要があるでしょう。
けれど、そういった事情がない場合は、多くの場合、親から子どもへの『贈与』と考えることができます。この場合、『書面によらない贈与』として、『履行の終わった部分については撤回できない』(民法550条)。つまり、親は、これまでかかった費用を返せとは言えません。
仮に、教育費の返還という名目ではなく、生活に困った親から「養ったから、養い返せ」という要求が来た場合はどうでしょうか。
民法877条第1項は『直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある』と定めています。もし、あなたの親が、将来、生活に困って頼ってきたら、あなたには、親の生活を助ける法的義務があります。
もっとも、義務があるといっても、各人の事情は様々です。親が頼ってきたからといって、直ちに支払わなければならないというものではありません。ここで言う『扶養』の程度は、『生活扶助義務=自分に余力があれば援助すべき義務』と解されています。
親が家庭裁判所を通じて、扶養を求めて来ることもあります。逆に、子どもの方から家庭裁判所を通じて、親族関係を調整する申立てを行うこともでき、その調停の中で、互いに義務を免除すべき事情について話し合うこともできます」
【取材協力弁護士】
関 範子(せき・のりこ)弁護士
家事・民事・刑事事件を広く手がけている。外国人事件にも力を入れており、英語であれば通訳なしで対応可能。所属事務所の勤務弁護士の中ではキャリアも長い方であり、指名による依頼も多い。
事務所名:弁護士法人ALG&Associates