動物を擬人化した愉快な物語は、ディズニー・アニメーションのお家芸。ただ、最新作『ズートピア』(4月23日公開)は、予想値を遥かに上回る面白さがある。特筆すべきは、ウサギが大志を抱くという設定と、人間くさくてリアルな動物たちのキャラクターだ。本作を手掛けたのは、『塔の上のラプンツェル』(10)のバイロン・ハワード監督と『シュガー・ラッシュ』(12)のリッチ・ムーア監督。来日した2人にインタビューし、気になる製作秘話を聞いた。
田舎町で育ったウサギのジュディの夢は、警察官になることだ。でも、実際、警察官になっているのは、サイやカバなど大型動物ばかり。ジュディは諦めずに努力して警察学校を首席で卒業し、ウサギで初めての警察官になる。そして、動物たちが人間のように暮らす楽園“ズートピア”に赴任し、大奮闘していく。
主人公ジュディをウサギにした理由について、バイロン・ハワード監督はこう語る。「主人公をどの種類の動物にするかはじっくり考えたよ。それで、とても小さくてかわいいけど、障害を乗り越えて警察官になるという方がドラマティックだと思ったので、ウサギにしたんだ。我々人間にも同じことが言えると思うけど、生きていくうえで、克服していかないといけない障害は山ほどあり、そこで葛藤する。そのことを描きたかったよ」。
リッチ・ムーア監督も、愛らしくて夢を追っていくジュディは、一見、典型的なディズニー・アニメーションのヒロインに見えるが、そうではないと言う。「夢を叶えるために、故郷を離れ、憧れの大都会・ズートピアにやってくるが、そこでズートピアに隠された秘密を調べていく過程で、いろんなことを発見していく。そう、自分が思っていた以上に、世間は複雑で厳しいところだと思い知るんだ。そういう意味でジュディは、とても現代的なヒロインで、誰もが共感できるキャラクターになったと思う」。
『塔の上のラプンツェル』では、王子様にあたるフリンが、指名手配されている大泥棒だったり、『シュガー・ラッシュ』では、主人公のラルフが悪役だったりした。2人が描く主要キャラクターは、かなりのコンプレックスを抱えている点がユニークだ。
リッチ・ムーア監督はうなずき「私は、完璧ではなく欠点を抱えたキャラクターが好きだし、惹かれるね。特に主人公には、そういう部分が必要だと思う。なぜなら、ストーリーの最初から、着地点に行くまでに、成長していかないといけないから。だから、弱さやダメなところがある方が魅力的なんだ。まさにジュディがその良い例だよ。ズートピアに来てから、自分の弱い面と向き合い、それを乗り越えて初めて一人前になれるんだ」。
バイロン・ハワード監督も同意見だ。「大切なのは、いかに観客のみなさんが共感してくれるキャラクターを作り出せるかどうかだ。完璧で非の打ち所がないようなキャラクターには誰も共感できないし、実際、我々人間だって欠陥だらけだよ。私も日々ミスをおかしているからね。でも、だからこそ、協力し合う。今回の共同監督についても、お互いに補い合えるチームだったからこそ、満足できる映画になったと思うよ」。
確かに映画を観れば、誰もがジュディに感情移入し、心から応援したくなる。また、キャラクターが濃い脇役キャラも最高に愉快だ。そしてラストには、予想外の結末が待ち受けている点も心憎い。
『ズートピア』は、すでに3月4日に全米公開され、ディズニー・アニメーション史上No.1のオープニング興収を記録し、なんと3週連続首位を獲得したが、実に納得のクオリティ!子どもはもちろん、いまをふんばる大人たちにも是非観ていただきたい。【取材・文/山崎伸子】