【レポート】イーロン・マスクとジェフ・ベゾスの再使用ロケット対決、勝つのはどちらか | ニコニコニュース

画像提供:マイナビニュース
マイナビニュース

●両者のロケットはこんなに違う
4月3日、ネット通販大手のAmazonの設立者として知られるジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンが開発した「ニュー・シェパード」ロケットが、同じ機体を使って3回目となる打ち上げ、着陸に成功した。

ニュー・シェパードは垂直に着陸することができ、高度100kmの一般的に宇宙と呼ばれる空間まで飛ぶことができるロケットである。これまでに垂直離着陸式のロケットはいくつか開発されているが、高度100kmまで到達できる能力をもっていたり、あるいは着陸に成功したりといった例はなかった。また、宇宙空間まで行ける上に再使用が可能なロケットも、スペースシャトルなどいくつか例があるが、垂直着陸式ではなかった。垂直着陸式で、なおかつ宇宙まで行って帰ってくることができ、同じ機体で3回も繰り返し飛行できたのは、今回のニュー・シェパードが世界初である。

一方、電子決済サービスPayPalや電気自動車のテスラ・モーターズの設立者として知られるイーロン・マスク氏の宇宙企業スペースXは、このニュー・シェパードの成功から6日後の9日、国際宇宙ステーションに向けて補給船を打ち上げた「ファルコン9」ロケットを、海上に浮かべた船の上に着地させ、回収することに成功した。

ファルコン9は、単に宇宙空間に到達できるだけではなく、地球をまわる軌道に人工衛星を投入することができる、ニュー・シェパードよりはるかに大型で強力なロケットである。また、ファルコン9の回収に成功したのは今回で2回目で、船での回収成功は初であった。垂直着陸式で、なおかつ人工衛星を打ち上げるだけの強力な能力をもったロケットの機体を、洋上に浮かぶ船で回収できたことが今回の成功の意義である。

ロケットがロケットエンジンを地面に向けて噴射しながら地上に舞い降りる様は、まるでSF映画のようで多くの話題を呼んだ。もちろん、見世物にするために着陸させているのではなく、彼らにはロケットを回収し、何度も使うことで運用コストを下げるという野望がある。ロケットのコストが下がれば、それだけ宇宙に人や物を打ち上げやすくなり、いつか宇宙や他の惑星で人が暮らすような時代が来ることになる。

マスク氏とベゾス氏という、ともにITで財を成した起業家が、偶然にも同時期に、同じ「ロケットの再使用による低コスト化」という目標に向けてひた走っている。しかし、現時点では両者の間にはまだまだ差があり、さらにロケットの再使用による低コスト化も、本当に実現するかはまだわかっていない。

○なぜ垂直離着陸?

ニュー・シェパードとファルコン9はともに垂直離着陸、つまり垂直に打ち上げられ、垂直に着陸する形式を採っている。

これまで再使用ロケットというと、有名なスペースシャトルのように大きな翼をもっていたり、あるいはパラシュートを使って回収していた。ニュー・シェパードとファルコン9でこれらの方法が使われないのには、もちろん理由がある。

たとえば大きな翼は、機体の方向を変えたり、空気との抵抗で速度を落とすことには役立つものの、打ち上げ時にはただの重りでしかなく、もちろん空気のない宇宙でも何の意味もない。パラシュートも空気との抵抗で速度は落とせるが、狙ったところに着陸することは難しく、また着陸時に速度を完全にゼロにすること、つまり機体に大きな衝撃をかけずに回収することも難しい。

その点、ロケットエンジンは打ち上げ時にも使うものなので無駄ではない。着陸時に使うために追加の推進剤が必要にはなるものの、翼ほど重くはない。また、エンジンの推力(パワー)を変えることで機体の降下速度や着陸時の速度を制御することもでき、狙った場所に安定して降ろすことが可能になる。

装着さえすれば機能する翼や、展開さえすれば機能するパラシュートとは違い、ロケットエンジンを再点火したり、推力の制御をするのはとても難しい。しかし、前述のようなそれを補って余りある利点があるために、ブルー・オリジンとスペースXはそれぞれほぼ同じ、ロケットエンジンを使う着陸方法を採用している。

○両者はまだ直接対決には至っていない

マスク氏とベゾス氏は、ともに同じ垂直離着陸方式のロケットによる再使用に挑んでいる。しかし、両者の間にはまだ大きな差があり、どちらがすごいかということを論じるのは難しい。

一番大きな差は、人工衛星の打ち上げを目的としているかどうかという点であろう。ニュー・シェパードは地上からまっすぐに上昇して宇宙の”端”に達した後、そのまままっすぐ降下することしかできない(こうした飛行のことを「サブオービタル飛行」という)。一方のファルコン9は、スペースシャトルや国際宇宙ステーションなどと同じように、地球のまわりを回る「軌道」に到達することができる。

もちろんサブオービタル飛行も簡単というわけではない。しかし、技術的には軌道へ物を打ち上げるほうが圧倒的に難しい。

マスク氏はこの差を次のように語っている。

「ニュー・シェパードのように宇宙に行くだけならマッハ3の速度で足りるが、ファルコン9のように人工衛星を打ち上げるためにはマッハ30が必要となる。これらの速度を出すためのエネルギーはその二乗が必要なので、エネルギーで比較すると両者には100倍の違いがある」。

もう少し細かいことを言うと、ファルコン9は人工衛星を打ち上げられる能力をもっているとはいえ、地上に帰ってくるのは途中で切り離される第1段機体のみである。第1段機体は高度80kmほど、時速7000kmほどで切り離されるので、ここだけに限ると、ニュー・シェパードとそれほど大きな差はないようにも見える。ただ、そもそも人工衛星を打ち上げるロケットは徹底的に軽量化する必要があるため、強度的にぎりぎりの構造になっている。一方のサブオービタル機は、そこまでぎりぎりの設計にする必要がないため、比較的余裕のある機体にすることができる。飛ぶ様子は似ていても、両者には大きな差がある。

たしかにニュー・シェパードは、3回の再使用に成功した点でファルコン9よりも先んじたようにも見えるが、完全に打ち負かしたわけではない。一方のファルコン9は軌道に人工衛星を飛ばせる能力をもっているが、回収こそ2度も成功しているものの、再使用はまだ行われていない。つまり両者はまだ、直接的な対決には至っておらず、ようやく同じ盤上に駒を並べ始めたような段階にある。

●再使用でロケットは本当に安くなるか
○直接対決は2019年にも

しかし、ブルー・オリジンもまた、ファルコン9のように人工衛星を打ち上げることができる大型ロケットの開発を進めている。詳しい性能も、名前さえもまだ明らかになっていないが、有人宇宙船を軌道まで飛ばせるほどに大きく、強力な性能をもっており、そしてもちろん再使用が可能なロケットになるという。初打ち上げは2019年を見込んでおり、すでにロケットエンジンの開発などが始まっている。

一方のスペースXも、先日船での回収に成功したファルコン9を点検、試験し、早ければ今年5月か6月ごろにも再使用したいという見通しを明らかにしている。実現すれば、スペースXはブルー・オリジンに対して一歩先んじることができる上に、2019年までは独走を続けられることになる。

もっとも、後発であるブルー・オリジンは、これからロケットを再使用するにあたって、スペースXが経験するであろう苦労を、情報として仕入れることができ、あらかじめある程度の対策を打つこともできる。また、後述するようにロケットの再使用はうまくいかない可能性もあり、スペースXの動向を見て、再使用そのものの是非や、あるいは再使用するにしてもそのやり方など、方針を変えられるという利点もあるだろう。

2019年以降、再使用ロケットをめぐった、両者の直接対決が見られることになるかもしれない。

○再使用でロケットは本当に安くなるのか

ロケットを再使用するということは、つまりは旅客機のように運用するということである。多くの旅客機の1機あたりの建造費は100~200億円で、1回の運航にかかるコスト(燃料費や空港での点検、整備など)は数百万円、設計寿命は20年以上、その間に総飛行時間が6万時間、離着陸回数は2万回以上をこなす。

さすがにロケットをまったく同じ感覚で飛ばすのは難しいだろうが、たとえばスペースXは「打ち上げコストを従来の100分の1にする」という目標を掲げている。今のファルコン9の価格は約70億円ほどなので、約7000万円になる計算である(もっとも、コストと価格は同じではない)。100分の1でも、あるいは10分の1でも、実現すれば宇宙はうんと身近なところになるだろう。

しかし、本当に再使用で、ロケットのコストは安くなるのだろうか。

たとえば、よく高い高いと批判されたスペースシャトルだが、オービターは建造費だけで約2000億円もかかったものの、再使用のための点検や整備、そしてブースターなどをすべて含めた1回の打ち上げコストは最大で1000億円ほどだった。これを安いと表現するのは気が引けるが、少なくとも建造費は超えていない。

ただし、オービターは合計5機しか造られておらず、それぞれの仕様や建造時期も違うため、量産されたとは言いがたいということに注意が必要である。一般的に、仕様や部品を規格化し、大量生産を行えるようにすれば、生産の効率が上がり、また品質も安定し、結果的に生産にかかるコストを下げることができる。その代表例が自動車で、ロケットの世界でもロシアや中国がこの方法によって使い捨てながら安価なロケットを供給している。

つまりファルコン9を年間何十機も量産するのと、年に数機しか造らず機体を使い回すのとでは、どちらが安くなるのか、あるいはその分かれ目が何回目の打ち上げから発生するのか、という数字が出てこなければ、ロケットの再使用が本当に安くなるのか、あるいはならないのか、ということは判断できない。

とくに、再使用には信頼性の低下という問題がかかわってくる。ロケットという乗り物は強大なエネルギーでもって、ものの数分で地上から宇宙まで駆け上がる。機体のあちこちに大きな負担がかかる上に、前述のように軽量化のためにそれほど頑丈には造れない。だから現在のロケットは、基本的には1回の打ち上げにさえ耐えれば問題ない、という造りになっている。

そのような”貧弱”な機体を何度も再使用するとなると、使い込めば使い込むほど、どこかが壊れる心配が出てくる。いくら安いロケットでも頻繁に失敗するようでは意味が無いし、そのために整備費がかさんで、結局高価なロケットになってしまっても意味が無い。

ロケットの再使用が本当に安くなるのか、そして次世代のロケットのトレンドになるのかはわからないが、ブルー・オリジンとスペースXは楽観的な態度を取り続けている。

たとえばブルー・オリジンはすでに2回の再使用によって3回の打ち上げ、着陸をさせており、ロケットの再使用に関して、たとえば1回の飛行で機体がどれだけの負荷がかかり、整備が必要なのかどうか、必要ならどの程度か、といったデータをもっている。

またスペースXも、すでに昨年末に着陸した機体を分解し、詳しく分析している。過去には、高度は最大1000mほどではあるものの、実験機を何度も飛ばしてデータを得てもいる。

そうした、彼らの持つデータが具体的にどういうものか明らかにされていないが、両者が今もロケットの再使用という未来を諦めず邁進を続けているということは、少なくとも今のところは、楽観的になれるほどの明るいデータが出ているということだろう。

実際ブルー・オリジンでは、今後もニュー・シェパードの試験飛行を繰り返し、2年以内にも同ロケットを使った宇宙観光や宇宙実験をビジネスとして展開したいとしている。また、すでに同社の工場では、複数のニュー・シェパードの建造が進んでいることも明らかにされている。

またスペースXのマスク氏も、今回のファルコン9の打ち上げ・回収成功後の記者会見で「ロケットの再使用は10回から20回は耐えられるだろう。小さな改修を行えば、100回程度にまで耐えられると思う」と語っている。

再使用でロケットは本当に安くなるのか。早ければ今年中にも、その答えがわかることになるかもしれない。

【参考】
・Blue Origin | Launch. Land. Repeat.

 ・SpaceX return Dragon to space as Falcon 9 nails ASDS landing | NASASpaceFlight.com

 ・Falcon 9 FT – Rockets


 

(鳥嶋真也)