一連の熊本地震に関する報道をめぐり、「マスコミ批判」が巻き起こった。過去の震災から学ばない大手メディアは自分たちの都合を優先。肝心の被災者をないがしろにしているかのような事態が続発したためだ。まずは、一連の大手メディアが引き起こしたトラブルをまとめてみたい。
■大手マスコミの横暴に批判殺到最初に批判が起きたのは、関西テレビの中継車がガソリンスタンドの列に割り込んだという問題。当時、被災地周辺ではガソリンを求めて長蛇の列ができており、割り込みを目にした現地の一般女性が17日にTwitter上で怒りの告発をした。
当初は「自分たちで燃料を持ち込んでスタンドに管理をお願いしているらしい」と擁護する意見もあったが……。
「関西テレビは割り込みの事実を認めて謝罪。しかも、関西テレビを擁護する書き込みをしていた人物は同じフジテレビ系列の仙台放送の関連会社スタッフで、その内容が虚偽だったことが判明した。結果、仙台放送まで謝罪文を発表するという恥の上塗りとなってしまった」(テレビ関係者)
続いて、熊本取材をしていた毎日放送の山中真アナウンサー(39)が自分用の弁当の写真とともに「現地は食料が手に入りにくい」という趣旨の文章を自身のTwitterに投稿し、これが「被災者の食べ物を横取りしている」などと猛批判される騒動が起きた。
毎日放送によると「弁当は熊本市内で通常営業している店舗でスタッフが購入したもの」で被災者に支給された弁当を横取りしたわけではないというが、山中アナは当該ツイートを削除した上で謝罪した。
■長谷川豊アナが取材陣を擁護も…この騒動に元フジテレビでフリーの長谷川豊アナ(40)が疑問を呈した。長谷川アナは「多くの取材陣が今まさに悲惨な状況を伝えんと頑張っています」「1日1食の質素な弁当くらいはどうか認めてあげてほしい」と山中アナを擁護。批判的なネットユーザーたちを「テレビを見ながらマスコミ批判をしていれば満足する下品なノイジーマイノリティ」と斬り捨て、現地報道の大切さを説いている。
ところが、長谷川アナが2015年9月15日付けの自身のブログで「マスコミの食料買い占め」を暴露していたことが判明。フジ時代に何度も災害報道を担当したといい、報道ヘリが救助を妨害しているとの意見に触れて「今思えば、一番まずいことをしていたなぁ…と感じるのは、むしろヘリなどよりも、コンビニの『買占め行為』の方でしょうか」と記していた。
フジテレビだけでも現地取材に当たるのは4、5人編成のチーム数組で「全員3食、食べます」と記述。他局や新聞社なども合わせれば大人数となり、それが「災害現場近くのコンビニに群がります。そして、会社の経費であるのをいいことに、おにぎりやパンなどをほとんど買い占めます」と綴っていた。
山中アナがどうだったかは別にしても、長谷川アナは完全にブーメラン状態で自ら擁護論の信憑性を落としてしまった。
■避難所に「取材禁止」の張り紙もさらにマスコミ批判の決定打になったのが、生中継での被災者とのトラブル。情報番組『Nスタ』(TBS系)が避難所から中継した際、被災者と思われる男性から「見世物じゃねえぞ!」と怒鳴られる様子が放送されたのだ。
ケンカ腰だったために当初は「危ない人」と揶揄する声もあったが、真偽不明ながら男性の姪を名乗る女性がTwitterで「こっちは生きるだけで必死なのにマスコミが何度も取材してきて、いとこのお父さんがあまりのしつこさに注意した」と説明。避難所の高齢者から「テレビの人たちを何とかしてほしい」との訴えがあり、それに応えて声を上げたのだという。
それを抜きにしても、避難所に「取材禁止」「施設内はカメラ禁止」といった注意書きが張り出されるようになったのは事実だ。もし節度を保った取材をしているなら、そんな張り紙は必要ないだろう。
大手メディアの現地取材は、被害の大きさや被災者の現状を広く知らしめるために意義のあるものだ。だが、被災者ではなく「報道」そのものを優先させては本末転倒である。せめて災害報道では節度ある取材を心掛けてほしいものだ。
文・佐藤勇馬(さとう・ゆうま)※個人ニュースサイト運営中の2004年ごろに商業誌にライターとしてスカウトされて以来、ネットや携帯電話の問題を中心に芸能、事件、サブカル、マンガ、プロレス、カルト宗教など幅広い分野で記事を執筆中。著書に「ケータイ廃人」(データハウス)「新潟あるある」(TOブックス)など多数。