ホラーというジャンルに属さないにも関わらず、とても怖い映画を見たことはないだろうか。海外メディアTaste of Cinemaは、ホラーではないのに怖い映画として、『レクイエム・フォー・ドリーム』(01)など12本を選出している。
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まず紹介されているのは、ミヒャエル・ハネケ監督の『セブンス・コンチネント』。1980年代後半のオーストリアを舞台とする本作で描かれるのは、代わり映え無く繰り返される、退屈な日常が生む恐怖だ。多額の借金や住宅ローンによってそれぞれ影響を及ぼされた父と母と娘は、自分たちの所有物を徹底的に破壊していく。この破壊は、一家が悲惨な現状からの解放に至るための道筋に思えるのだが、ハネケ監督は家族たちに何らの感情も与えることがない。無機質な破壊を淡々と映し出す、異常なまでにミニマルなハネケ監督の表現こそ、本作が恐怖映画たる所以だ。
ダーレン・アロノフスキー監督の『レクイエム・フォー・ドリーム』もランクイン。ヒューバート・セルビー・Jrの小説を映画化した本作では、薬物に限らず、食べ物、ダイエット、テレビ、セックスといった身近なものが中毒性を孕むというショッキングな事実が、鮮烈な映像表現と共に描き出される。主演のジャレッド・レトやジェニファー・コネリーも名演を見せているが、老女サラに扮したエレン・バースティンの演技が秀逸。孤独な人生を変えるために踏み出した一歩が皮肉な中毒を招いてしまい、悲劇的な転落を見せる彼女の姿は、歪んだ映像表現や暗い音楽も相まって、実に恐ろしいものに仕上がっている。
恐作ぞろいのリストでも抜群の異彩を放つのが、ギャスパー・ノエ監督の『アレックス』(03)だ。導入部分のモノローグで、ストーリーが気の滅入るようなものであることが示される本作は、同性愛者が集うパリのナイトクラブを舞台に、恐ろしい暴力を描く。逆回しの時系列に加え、常に動き回るカメラによる長回し撮影や、奇妙な音楽の数々といった構成要素も、鑑賞者に不快感を抱かせる小道具として機能。9分にも及ぶモニカ・ベルッチのレイプシーンを含め、その過剰な暴力にまみれた物語の不気味さは、もう二度と見たくないと感じることだろう。
Taste of Cinemaが選ぶ、ホラーではないのに怖い映画12本は以下の通り。()内は日本公開年
『セブンス・コンチネント』(未公開/89)