Apple Payに始まり、Samsung PayやAndroid Pay、最近では大手銀行のChase Pay、小売大手のWalmart PayやTarget Payなんてものまで登場するなど、モバイル決済業界は「〜Pay」が大ブームだ。
いわゆる「モバイルウォレット(Mobile Wallet)」と呼ばれる海外版「おサイフケータイ」とも言えるサービスだが、ここに来て新しい参入者がやってきた。それがマイクロソフトの提供する「Microsoft Wallet」だ。
話題の「〜Pay」という名前ではないものの、仕組み的には同サービスに対応した銀行のクレジットカードまたはデビットカードを登録し、NFCによる非接触通信でモバイル端末を使った決済が可能になる点で、Apple PayやAndroid Payのそれとほぼ同じだ。
米国時間で6月21日に正式発表され、「Windows Insider Programに参加してBuild 14360以上のInsider Previewをインストールされている端末」、「発表時点での対応機種はLumia 950/950XL/650の3機種のみ」、「対応するカードの発行銀行は5行のみ」という非常に厳しい利用条件ではあるものの、Apple Payを試すべくiPhoneを片手に世界中を行脚した筆者にはぜひ試してみたいサービスではある。
幸い、発表直後のタイミングに所用で米国はサンフランシスコに滞在する機会があったので、さっそく試してみることにした。
Lumia 650を入手してMicrosoft Walletをセットアップ
前述のように対応機種は3機種のみなので、Windows Mobile系の端末は「Lumia 920」「Lumia 636」の2つしか持っていない筆者は、まず対応端末を入手するところから始めなければいけない。
だが、Lumia 950/950XLは販売価格が最低でも600ドル近いため、さすがに購入を躊躇してしまう。だが、ミッドレンジのLumia 650は本体価格が200ドルで、税金を足しても220ドル程度。しかも、購入のために立ち寄ったサンフランシスコ市内のMicrosoft Store Westfield San Francisco Centreでは、同時に購入を考えていた「Office 365 Home」が通常の99.99ドルから50ドル引きの49.99ドルで販売されていたため(経緯の詳細は某所の連載記事を参照)、結局これが決め手になってLumia 650の購入に踏み切った。
さて、Lumia 650を入手したので早速セットアップだ。Insider Previewの導入には「Windows Insider」アプリをWindows Storeからダウンロードして「Fast Ring」に設定し、最新のInsider Previewビルドが落ちてくるのを待つ形となるが、その前に「Windows 10 Mobileを最新状態にアップデート」し、さらに「1GB以上のInsider Previewをダウンロード」しなければならない。
物価高騰も甚だしいサンフランシスコの安宿に滞在していたためホテルのWi-Fi接続もままならず、結局2GB近いデータを携帯回線のみを使ってダウンロードすることにした。そのため、残りデータ容量に余裕のあるメイン回線であるAT&T SIMをLumia 650に投入し、それまでAT&T SIMで運用していた「Nexus 5X」にGoogle FiのSIMを適用するシャッフルが発生している。今後、しばらくはLumia 650が自分のメイン端末となりそうだ。
ところが、ここで問題が発生する。Windows 10 Mobileはデフォルトでは「Wallet」アプリが導入されていないため、まず、これをWindows Storeからインストールする必要がある。
手順に沿ってアプリをインストールし、最初のアップデートをかけたところ、決済機能どころか一部ロイヤリティカードが登録可能なだけの「使えないWalletアプリ」にしかならない。バージョン番号を確認してみると「1.1」という古いバージョン(正確には一般向けに配布されている現行バージョン)であり、Microsoft Wallet利用に必要な「2.0」ではない。
さまざまな操作を行なって何度トライしても1.1からのアップデートは行なえず、いったんここで手詰まりとなった。実際、米国でユーザーフォーラムでの書き込みを覗いていると同じ症状がいくつか散見されたため、自分ひとりだけの現象でもないようだ。「帰国までに使えなかったらLumia 650を返品してやる」との思いを心に秘めつつ、とりあえずしばらく放置することにした。ここまでは某所の連載でMicrosoft Walletの紹介を行った記事でも触れたところだ。
こうして2日ほど端末の設定を放置していたところ、Windows StoreのWalletアプリのページに「Update」ボタンが出現していることに気付いた。実際にアップデートしてみると、アプリのサイズが従来の倍以上で「明らかに新機能が追加されている」感があった。その予感は的中し、アプリのバージョンは「2.0」となり、設定画面も大きく変化した。決済カードの追加が可能になったのだ。
さっそくカードの追加を試みるが、まずはPINコードの設定が必要だという。Windows 10やWindows 10 Mobileでは「Microsoft Passport」の仕組みにより、端末ごとに有効なPINコードを設定することで、1回のPINコード入力で複数のアプリやサービスへのアクセスが可能なシングルサインオンの仕組みが導入される。
スクリーンロックの画面にPINコードを設定することでセキュリティを高め、PINが入力されて初めてWalletアプリへのアクセスが可能になるということなのだろう。
なお、Lumia 950/950XLなど虹彩を使ったバイオメトリクス認証に対応する端末であれば、PINの設定後に「Windows Hello」の導入も可能になる。これにより、毎回決済時にPINを入力する手間がなくなる。
「非接触の決済端末が正面を向いていないと(決済時の)虹彩認証は使えないんじゃないの?」と思われる方もいるかもしれないが、その場合は事前にWindows Helloのロック解除を行なっておけば、「Grace Period(グレイス・ピリオド)」と呼ばれる猶予時間が数分ほどあり、仮に操作中に省電力設定が原因でスクリーンロック画面に戻ってしまっていたとしても、再度Windows HelloやPIN入力によるロック解除動作をする必要はない。端末を読み取り機にかざすと、グレイス・ピリオドの期限内であれば自動的にWalletアプリを呼び出して決済が完了する。
Windows 10 Mobile片手にマクドナルドを食べにいこう
Microsoft Walletのセットアップが完了したので、さっそくモバイルNFCによる決済を試してみよう。まずはお約束のMcDonald'sだ。筆者を含め、この手のサービスを最初に試すのは毎回なぜかMcDonald'sという暗黙のルールがある。
実際、この手のサービスで初めて登場した「Google Wallet」を最初に試したのもMcDonald'sだし、Apple Payをインストールして最初にトライしたのもパリのMcDonald'sだ。沼津に対応のマクドナルドはなかったが、その後横浜に対応店舗があるとの情報を得て、実際にApple Payを試してみた。NFCではないが、Googleの顔パス決済である「Hands Free」を最初に試したのもMcDonald'sだ。
余談だが、Microsoft Walletをリーク情報を基に正式発表前に報じたWindows CentralのDaniel Rubino氏も、最初に試したのは同氏いわく「10年ぶり」というMcDonald'sだ。というわけで、機会があったらまず実績あるMcDonald'sでいろいろ試してみてほしい。
買い物ついでということで、最初にトライする店舗はMission&24th StにあるMcDonald'sに。実際にLumia 650をかざしてみると、あっさりと決済に成功した。
手順としては、店員にカード払い(もしくはモバイル端末で支払い)を告げると手前の決済端末が有効になり、この非接触読み取り部分にLumia 650をかざす。
1〜2秒ほど経過すると本体がバイブレーションしてPIN入力画面が出現する。ここでPINを入力するとWalletアプリが立ち上がり、再度PIN入力で本人確認を求めてくる。この操作が完了すると、すぐに決済完了だ。
2回のPIN入力をどれだけスムーズに行なえるかにかかっているが、トータルで10〜20秒ほどかかる。実はこの操作手順はAndroid Payとまったく一緒なのだが、Touch IDに指を載せておくだけですぐに決済が完了するApple Payと比較すると非常に煩雑さが目立つ。セキュリティー強化のためではあるが、OSとの統合を強化して素早く支払える仕組みにするなど、いろいろ工夫の余地があると考える。
米国ではMcDonald'sの店舗に順次「Easy Order」と呼ばれる注文用KIOSK端末を配置していく計画を発表しており、比較的新しい店舗やリニューアルされた直後の店舗には、このKIOSK端末が配置されていることが多い。
欧州ではおなじみのEasy Order端末だが、サンフランシスコ中心部に出現した新しいMcDonald's店舗でも導入され、しかも非接触決済に対応しているときている。ここでも実際に試してみたら、簡単に注文が行なえた。
なお、米国のEasy Order端末は欧州の「IC付きクレジットカード専用」のものではなく、カウンターでのキャッシュ払いにも対応しているなど、カードを持たない人間や外国人にもフレンドリーな仕組みになっている。
オーダー用の端末とカウンターの待ち行列を切り分けることで、混雑緩和が狙いなのだろう。日本でも順次Easy Order端末を拡大していく計画があるという話を聞いており、おそらく米国方式を採用して混雑緩和を進めてくるとみられる。横浜の店舗のように、NFC決済に対応した端末が出現することを楽しみにしている。
McDonald's以外にもいろいろ試してみたが、ドラッグストアチェーンのWalgreensではMicrosoft Walletがうまく使えず、相当に苦労した。
まず、読み取り機にLumia 650を接近させてもNFCアンテナが反応せず、本体がなかなかバイブレーションしない。タイムアウトになってApple Payで支払ってしまったときもある。
端末と読み取り機の上端部を互いに接触すれば成功率が上がることを発見したが、それも確実ではなく、確実に相性みたいなものが存在するようだ。また、おもしろいように注文が成功していたMcDonald'sのEasy Order端末でも、1回だけKIOSK端末そのものがフリーズしてしまう現象に見舞われた。携帯端末をかざしただけで故障するKIOSK端末も酷い話だが、今後の改善を望みたい。
今回のハイライトは成田空港
米国ではほぼ問題なく使えたMicrosoft Walletだが、今回の旅のハイライトは成田空港だ。現在日本国内では、沼津や函館を除けば、全国チェーンでPayPass/payWaveのような「NFC Pay」が「正規」な手順で問題なく利用できるのはIKEAとマクドナルドしかない。
マクドナルドは横浜の3店舗(横浜西口、伊勢佐木町、新横浜)に加え、成田/関西空港の2ヵ所で利用可能だが、このうち成田空港の第1ターミナルでは誰でも入れるゲート外の店舗がビル4階、制限エリア内のゲート内店舗が3階にそれぞれ存在する。NFC Payはこのどちらでも利用可能だ。
今回シアトル経由でサンフランシスコから帰国した足でそのまま4階に上がり、実際に日本国内でMicrosoft Walletを試してみることにした。結果は上々で何の問題もなしに決済が完了する。店員も「payWaveで支払います」と伝えると、スムーズに操作して「NFC Pay」を選択していた。
この際に注文したのは、トッピングのカスタマイズであるハラペーニョ入りてりやきバーガーで、パイナップルシェイクを混ぜたコンボにしてみた。ハラペーニョ入りはアクセントが効いてなかなかに美味しいので、機会があったらぜひNFC Payで食べてみてほしい。