静謐のハサンの消滅を感じ取るパラケルスス。
彼は静謐のハサンの選択を受け入れて自らもまた最後の戦いに挑もうとしていた。
最後の生き残りによる頂上決戦がセイバーとキャスターのサーヴァントという面白い図式。
普通ならキャスターには勝ち目は薄いがこのクラスに据えられているのはあのパラケルスス。
魔術の世界でも有名な錬金術師にして一応はファラオにも勝つつもりだったサーヴァントである。
セイバーを迎え撃つ準備も万端。
多重結界と土のエレメンタル、金剛石の盾で三騎士の白兵攻撃にも対処できる堅牢な守り。
攻めは勿論のことパラケルススの宝具たる片手剣。
これが力を発揮すればどのような神話、伝説、伝承、魔力を帯びて現界するあらゆるものを穢すのだ。
平均的な能力の英霊であれば数秒も経たずに撃退、霊核を破壊しての返り討ちも容易い。
…いやランク高いのは知ってましたけど本当に凄いですねパラケルスス。
でも残念ながらこれから相手するのは平均的とは程遠い強さを誇るサーヴァントである。
むろんそんなことはパラケルススも承知。
相手が正義を秘めた本物の英雄で自分が邪悪、大逆、そして外道であることも正しく認識している。
むしろ生贄となった少女たちにまで自嘲するように高らかに宣言までする始末。
あの時から、玲瓏館さん家の信頼を裏切ったときから決まっていた道。
多くの子が慈しまれる明日を夢見て人類に貢献した男のなんと哀しき姿か。
それもこれも愛歌に出会ってしまったのが全ての始まりだった。
パラケルススも言ってましたが「諦めた」のだ。
抗うという選択肢を持てなかったのは、なまじ多くを識る魔術師としての頭脳も理由のひとつ。
脆弱な魂は捻れ、挽き潰され、カタチを変えて、魂が萎縮した。
残されたものは真のあるじへの畏敬のみだったという。
魔術師と優秀なのもこういう時は悪い方に働くというわけか。
もしも強靭な魂と自我を持ち合わせていたらまた違った道もあったのだろうか。それはわからない。
だから真のあるじと出会う前。美沙夜のことを小さな友達だと言ったのは嘘でもなかった。
彼女とは過ごした時間は穏やかで暖かな、幸せなものだったと。
それは現界した中でも最も尊い時間だったとパラケルススも断言するほどでした。
それすら時には捨てねばならぬとは魔術師の生態とは因果なものである。
そしてロリ美沙夜ちゃん可愛すぎる。これが後に女王さまになるんだからいいよね…。
そしてパラケルススさん甘いものが大好きであった。
子供はお菓子とか好きだろうと自らのホムンクルスたちに用意させたフランスの焼き菓子。
そこには美沙夜に見られながらもさくりさくりとお菓子を食べる錬金術師の姿が!
10歳の頃は実験と称して高純度の砂糖を生成してはこっそり舐めていたという。
子供の頃は悪賢い子でもあったとは本人の弁。
こんなところでパラケルススの愛嬌ある姿が見られるとは思わなかった。
>年を経た後にもあれこれとやらかしたものです。
>時計塔にも、アトラス院にも、幾度となく叱られたものです。
それはたぶん悪戯なんて可愛いものじゃないよネ。
そして現代の玩具にも興味津々であった。
子供の玩具に興味を持つというのがいかにもこの人らしい。
玩具が豊かであるというのは時代が豊かでもある証拠、宝物だと。
>「おお。これは、数秘術(ゲマトリア)のゴーレムを………?」
>「いいえ、違います」
電気で動くロボットの玩具を見たときの反応に不覚にも笑ってしまいましたよ。
アヴィケブロン先生に見せても面白い反応が聞けそうだよねと思った。
こうしてパラケルススは時に魔術の知識を教え
逆に美沙夜からは現代の知識を教えてもらい感銘を受けるという生活をしていた。
>「美沙夜。その優しさに私はきっと報いてみせましょう」
こうまで決意の言葉を口にした彼も悪逆の道へと落ちてしまった。
悪として生きるのは屈辱の日々であり本意ではなかったのかもしれない。
でも強大なる絶対者に従い生きるのも甘美ではあったそうな。
そして最後の最後に気づいた。根源だけでなく聖杯の輝きにも惑わされたのだと。
根源を求めたのが「愛し子らを救いたい」という理由ゆえに見誤ってしまったのだと。
大聖杯起動を目前とした今こそ彼はそれを精算する時が来ていた。
回想は終わり、邪悪なる魔術師にとって運命の者となった輝ける聖剣を携えたセイバーの登場である。
>「私です。私こそ英雄の敵であるのです。
> 友と認めた当代の魔術師を、この手に掛けたに等しく。
> 友と最愛たる幼き娘さえも、この手で呪ったに等しく。
> いつか宣言した通りに、極東に生きる数々の人々の命を大聖杯へと捧げ続けた!」
>「今も。今も、今も……!
> この道の最果てに在るものを貴方は見るだろう!
> 意思を奪われ、知性を縛られ、魂を捧げるために自動自殺機械となった少女たちを!
> 慈しみ、自らの命に代えても愛すると決めた人々を、
> 私は!ははは、効率的に殺し続けるのです!」
>「…なぜ涙する。キャスター」
>「否。これが涙であるものか。人の尊厳を喰らう悪鬼は、涙など流さない」
あくまでも愛歌に従う悪鬼としてセイバーと対峙するパラケルスス。
絶叫しながら真名開放してソード・オブ・パラケルススを騎士王へと直撃させようとする。
賢者の石はフォトニック結晶、霊子演算器としての能力を持っていて星の聖剣の斬撃すら取り込むことも可能。
原理はファラオの神殿における神域フィールドを一時的に無効化した時と同じである。
やるからには全力。いや自分すら倒せぬのなら大聖杯の悪すら両断することはできないと豪語する。
まさに最期のにして渾身の目論見。
しかしセイバーはコレをあっさり打倒。聖剣を一閃すれば魔剣の光は鮮やかに両断。
もう一閃すれば四種のエレメンタルは砕け、パラケルススの魔剣は彼の右腕ごと消え去った。
いやはやセイバー強すぎる。まさに敵なしって状態である。
星の斬撃も賢者の石で飲み込みきれず消滅するパラケルススが口にしたのは美沙夜の名前であった。
こうして残るサーヴァントはセイバーのみ。いよいよフィナーレが目前である。
愛歌もそれを感じ取ってか今までのサーヴァントとマスターを全て一人づつ思い出している。
オジマンディアスはやはり愛歌から見てもとっても強くてとっても怖いサーヴァントだったようだ。
アーラシュさんはとびきりの両眼を持っていると評している。
エルザさんは今も泣き続けているらしい。
そして大聖杯にくべる最後の生贄を連れてきた愛歌。妹を栄養扱いである。
ついにここまで来たかと感慨深い。次回、蒼銀のフラグメンツはついに完結ですよ。
今回の話はパラケルススの人間としての魅力が悪い方面でも良い方面でも面白かった。