4月16日未明、熊本県益城町平田地区の自宅は熊本地震の本震の激しい揺れに襲われ、瞬く間にごう音をたてて崩れた。同居していた祖父母が下敷きになって命を奪われた。今も手つかずの倒壊した家屋のがれきを前に、「何もできなかった……」と西村洋介さん(38)がうめく。あの日から3カ月がたつが、自責の念が消えない。
本震は益城町で最大震度7を観測した。自宅は古い木造2階建て。14日夜の前震を受け、普段は別の部屋で寝ている正敏さん(当時88歳)、美知子さん(同82歳)と一緒に1階の茶の間で寝た。正敏さんは足が不自由で、何かあれば一緒に避難するつもりだった。
本震の激しい揺れで跳び起きた洋介さんは、美知子さんとともにとっさに正敏さんをかばおうとした。しかし天井が落ちてきて、3人はばらばらになり、太いはりの下敷きになった。暗闇の中で「大丈夫?」と呼びかけると、美知子さんの弱々しい声が聞こえた。「(体が)挟まれた。抜けん、抜けん」
助けようとしたが、余震の度に「メリッ」と不気味な音がして天井がさらに崩れ、思うように体が動かない。やっとの思いで外にはいだし、倒壊した家屋に向かって呼びかけたが、2人の反応はなかった。熊本市に住む弟直樹さん(33)に携帯電話で助けを求めた。
駆けつけた県警などの救急隊に2人が運び出されたのは、地震発生から約6時間後。自宅のがれきの山には今も、救助の際に救急隊がこじ開けたわずかな空間が残っている。
正敏さんは寡黙で厳しく、美知子さんは明るくて世話好きの人だった。目前で2人を失った洋介さんは身を寄せた避難所で、落ち込んだ日々を送った。直樹さんが振り返る。「夜になると、あの時のことを思い出して責任を感じていた」
洋介さんは避難所から熊本市内の会社に通勤しているが、町内の仮設住宅への入居が決まり、月内に母と共に移る。しかし「気持ちが前に進めない」と語る。町に自宅の解体を申し込んでいるが、順番待ちの状態。「がれきが片付かないと、自分の気持ちも整理がつかない…」
一方で新たな一歩を踏み出さねばとの思いも出てきた。自宅近くにある数百本のクリの木の林を見ると、美知子さんが「このクリの木を大切にして」と言っている気がする。美知子さんが少しずつ植え足し、大事に世話をして育ててきた。毎秋出荷するクリはおいしく、人気があった。
洋介さんが言葉に力を込める。「そろそろ前を向こうと思って。おばあちゃんの林を守らないと」。近く、直樹さんと一緒に林の手入れを始めるつもりだ。【平川昌範】