このページは、Apple MacBook Pro に関するトピックをまとめた「myLife with MacBook Pro」で、
大変反響を呼んだ WUXGA ワイド液晶ディスプレイに関するトピックを独立させたものです。
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これ以前のトピックは「液晶ディスプレイとカラーマネージメント 1ページ目」をご覧下さい。
さて、次はお待ちかね「キャリブレーション」についてです。キャリブレーション:Calibration は日本語で 「較正(こうせい)」と言い、広辞苑によると“実験に先立って、測定器の狂い・精度を、基準量を用いて正すこと”[※1] を意味します。
コンピュータの世界(仮想世界?)と 人間の世界(現実世界)は、ディスプレイやプリンタ、キーボード、マウス、マイク、スピーカなどのいわゆる「I/Oデバイス」によって繋がれています。 これらのデバイスは、長期間の使用による経年変化、個体差、環境差 などによってその特性に「ズレ」が生じることがあります。
たとえばインクジェットプリンタ使ううちに、ヘッドが詰まっているわけでもないのに白い筋が出ることがあります。これは紙を送るローラーの精度が落ちたために起こる現象です。 (例:1mm送るはずが1.1mm送ってる)これを較正する作業が、プリンタを持っている人なら必ず一回はやったことがあるであろう「ヘッド位置調整」です。
また、ビデオゲーム機のコントローラーについている「3Dスティック」と呼ばれる前後左右に動かせる棒状の多階調2次元センサ( 2次元センサなのに何故3Dスティックというのか個人的には理解できませんが・・・)がふとした拍子にズレが生じて、スティックから指を離した状態(いわゆるニュートラルポジション) でもセンサが傾きを検知してしまい、ゲーム内のキャラクタが勝手に動き回ってしまう経験をしたことはないでしょうか? (特に 任天堂 Nintendo 64 のコントローラーはよくズレることで有名。) このとき、スティックに何も触れない状態で特定の操作をしたり、コントローラーを再接続してセンサの「ゼロ点」を補正します。これは紛れもなくキャリブレーションです。
さらにタッチパネルを搭載したラップトップコンピュータ、PDA、携帯電話、ペンタブレットでも、指示された点をいくつかタッチして感度を補正する機能があります。 これもキャリブレーションです。 少し視点を変えると、小売店が行う「棚卸し」はコンピュータが記録している在庫数(論理)と、店舗にある在庫(物理)を照合しズレを補正する作業ですが、 これも立派なキャリブレーションの一つといえます。
話が長くなってしまいましたが、まとめますと、キャリブレーションとは“ある要素(特性や値)の精度をより正確な要素を使って改善してやること” ということです。先の例で言えば、より正確な要素は、人の目だったり、ニュートラル状態だったり、現物確認 だったりするわけです。 “キャリブレーション”と聞くと、「なんだか難しそう」、「プロじゃないし関係ない」と思ったり、よくわからない憧れを持ったりしますが、一般生活でも行うよくある作業なんです。 逆に、毎日見るディスプレイを全く較正しない事の方が異常にすら思えますね。
[※1] : 広辞苑 第五版 (C)1998,2004 株式会社岩波書店 より引用
毎度毎度、前置きが長くてすみません。(直せない癖です。) ディスプレイのキャリブレーションは、主に3つの要素を設定・調整します。
輝度とはディスプレイ本体の「明るさ」・「輝度」・「ブライトネス」などの項目で設定できるディスプレイの「明るさ」のことです。 一般的な用途であれば、設定を上下させて「こんくらいの明るさがいいな」で決めてしまって構いません。一方、色にシビアな現場では厳密に指定する場合がほとんどです。 (sRGB規格では 80cd/m2 、AdobeRGB では 120〜200 cd/m2 が目安とされています。) 最も大事なのは、一度決めた明るさはキャリブレーション後 変えてはいけないことです。 これはバックライトや液晶などの応答特性により、明るさを変えるだけ色のバランスが狂ってしまうからです。 ですから、前もって「フォトレタッチするときはこの明るさ!」と条件を決めておいてください。
※ 最適な輝度を設定する方法は、本編「最低限やっておきたいディスプレイセッティング:最適な輝度を設定する」の章をご覧下さい。
だいたいの話は 本編「最低限やっておきたいディスプレイセッティング:最適な色温度を設定する」 の章で触れましたのでここでは省略します。5000K 〜 6500K の間に設定するのが一般的です。 一部の旧式ディスプレイや、安物ディスプレイでは、9300K 前後に設定されている場合がありますが、これではあまりに青すぎます。
※ 印刷物(プリンタ)とのマッチングを行う場合、白点色温度は極めて重要な要素になりますが、それはまたの機会にでも。
ガンマ値(γ・gamma value)とは、 入力値と出力値の比を表す値です。実はコンピュータのディスプレイの輝度は入力に対しリニアに増えません。ガンマ値が 1.0 であれば入出力の関係は直線(y=xのグラフ)になりますが、 一般的なディスプレイのガンマ値は 1.8 〜 2.2 に設定されています。すると入出力の関係は左図のように、指数関数っぽい曲線になります。
昔から、Windows は γ= 2.2、Mac は γ= 1.8 と言われてきました。 これは両者の主張によると、2.2 くらいが一番キレイに見える・1.8くらいが印刷物(紙)の特性に近い とのこと。ほんとなんですかね? この主張が受け入れられてか、 最終出力がディスプレイの作業(ウェブデザイン等)は 2.2、最終出力が紙(DTP等)の場合は 1.8 に設定するのが定石になっています。ちなみに我が家ではプリンタの出力結果とよりマッチするという理由から γ=2.2 にしています。
少し前までは、このガンマ値の違いにより、中間調が意図せず暗くなったり、明るくなったりしてトラブルになる事が多々ありましたが、 最近ではCMSがガンマ値の違いを吸収してくれるため、あまり神経質になる必要はなくなりました。また「表示が柔らかく、目に優しい」という理由から ガンマ値を 1.8 にして使っている人も多いようです。
キャリブレータを用いたキャリブレーションは大きく分けて3つの役目を持っています。 1つはディスプレイの各種パラメータ(輝度・色温度・ガンマ値)を指定値に設定するのを支援すること。2つめはディスプレイの色域を測定すること。(プライマリーカラーの測定。) そして3つめはガンマカーブの補正です。
なぜガンマカーブ補正が必要かというと、実はほとんどのディスプレイで出力特性がリニアになっていないからです。 つまり、黒 → 白 への明るくなり方が安定していない・バラつきがある、ということです。
▲ 理想なガンマカーブ(左)と、実際にディスプレイが持つガンマカーブ(右)
このような 入力と出力の関係を「ガンマ応答曲線」と呼びます。コンピュータ用ディスプレイのガンマ値は 1.8〜2.2 のため、 実際は前項の図のように指数関数のような曲線をしていますが、応答特性を直感的に見えるようにするため、理想曲線を直線に補正した上図のようなグラフもよく使われます。
ディスプレイのガンマ応答曲線が歪むと、表示映像にどのような影響があるのでしょうか? ガンマ応答曲線の歪みには2つの要素があります。 1つめは ガンマ値の歪みです。たとえば、ガンマ応答曲線が「S字」になっているディスプレイを想像してください。この場合、暗い部分はより暗く、明るい部分はより明るくなります。 安価なディスプレイは、低級ユーザが「このモニタ鮮やかで超キレイ!!」と騙されるよう、ガンマカーブを意図的にS字化させて、コントラストが高くも、 下品で不正確な絵作りをしているものが多いです。表現力の違いはもちろんですが、フォトレタッチ等に安価なディスプレイを使ってはいけないと言われているのには、こういった理由もあるのです。
×
=
▲ S字のガンマ応答特性を持ったディスプレイに画像を表示した場合
そしてもう1つは、カラーバランスの歪みです。R・G・B それぞれのガンマ応答特性にズレがあると、明るさによって一部が赤みがかったり、緑がかったりしてしまいます。
×
=
▲ カラーバランスが崩れた場合。モノクロ画像の一部で色被りが起こっている。
ガンマ応答カーブの正確さはほぼディスプレイのグレード(価格)に比例しています。工場出荷時の正確さはナナオのディスプレイが断トツです。 逆に、Acer、Buffalo、BenQ、DELL、I-O DATA などのローエンドモデルは、ガンマカーブが大きく狂っています。 しかしどんなにガンマカーブが正確なディスプレイでも環境変化や経年劣化によってガンマカーブは歪んでいきます。 つまり何にしてもガンマカーブを正す必要があるわけです。
歪んだガンマ応答カーブを補正するには、逆位相のカーブを畳み込み歪みを相殺してやればよいのです。 ("そうさつ"と呼ぶ恥ずかしい人がいますが、"そうさい"と読みます。) つまり、+10の歪みが合った場合、「−10」を加算してやることによって歪みを「0」にする、というわけです。
×
=
▲ ガンマ補正のメカニズム
ガンマ補正のためのデータ:補正曲線はディスプレイの ICCプロファイルに保存されます。 しかし、Windows (Vista含む)のCMSではこの補正曲線の読み込みをサポートしていません。 よって、ウィンドウズでガンマ補正を行うには、Adobe Gamma や キャリブレータに付属するユーティリティでグラフィックカード(GPU) のガンマテーブルを強制的に書き換えることによって、 ガンマ補正を行っています。
ガンマ補正は、コンピュータ(GPU内部)で行う場合と、ディスプレイで行う場合の2種類があります。このとき、前者を「ソフトウェアキャリブレーション」、後者を「ハードウェアキャリブレーション」と呼びます。
※ まれに、Adobe Gamma や アップルモニタ補正ユーティリティ などのソフトウェアを使った簡易キャリブレーションをソフトウェアキャリブレーション、Eye-One などの測定器をつかったキャリブレーションをハードウェアキャリブレーション と勘違いしている人がいますが、これは大きな間違いです。ハードウェアキャリブレーションを行うには最低15万円の専用ディスプレイと専用ソフトウェアが必要です。
現在、多くのデバイス・システムが色を24bit(各色8bit)で扱っています。また、グラフィックカード内でも色を24bitで扱っています。つまり現在のシステムでは冗長性が待ったくない状態で色が運用されています。そんな状態で画像にガンマ補正処理を行うと色情報が破壊されてしまいます。(具体的にはトーンジャンプが発生します。)
→ なぜソフトウェアキャリブレーションで色情報が劣化してしまうかは「LCD2690WUXi 製品レビュー:SpectraNavi によるハードウェアキャリブレーション」をご覧下さい。
そこで、コンピュータは24ビットの色データをそのままディスプレイに送信し、ディスプレイ側で色情報をオーバーサンプリングしガンマ補正処理を行うことで、色を保ったままガンマ補正できるようにしたのがハードウェアキャリブレーションです。ハードウェアキャリブレーションに対応したディスプレイでは、ディスプレイ内部に高精度なガンマ補正テーブルを持っています。HWキャリブレーションに対応したディスプレイは、36 bit/pixel 前後の補正テーブルを持っており、この場合コンピュータから入力された 約1677万色の色情報を、約680億色という膨大なカラーパレットに再アサインしています。
ハードウェアキャリブレーションに対応した WUXGA ディスプレイに、EIZO ColorEdge CG221 , CG241W , NEC MultiSync LCD2690WUXi , LCD2490WUXi などがあります。これらの高性能なディスプレイは15万円〜60万円とやや高価ですが、高い階調再現性を求めるハイエンドユーザには必須の機能と言えます。
ディスプレイの色を較正するためには、高精度に絶対的な色を測れる「キャリブレータ」という装置が必要です。 市販されているディスプレイキャリブレータは、色を測る測光器・キャリブレーションを行うためのソフトウェアがセットになっています。測光器にはいくつかの方式があります。
カラーフィルタ方式キャリブレータは、液晶ディスプレイやデジタルカメラのCCDと同様に、複数のカラーフィルタで各成分量を計測しそれらの結果を合成し色を決定します。 この測色法を「刺激値直読法」と呼びます。構造が簡単なため、安価・小型 ですが、 カラーフィルタの個体差・経年劣化・環境変化 で結果が変わってしまうため測定精度があまり高くありません。特に高純色の測定が苦手なため、 AdobeRGB 対応ディスプレイなどでは十分な信頼性を得られないことがあります。
スペクトル方式キャリブレータは、回折格子という素子を使ってプリズムのように光を各波長成分に分解します。 分解された光は何十個もの分光センサによって読み取られ、高度な計算によって色を決定します。この測色法を「分光測色法」と呼びます。 分光測色法は、物理学に裏付けされた絶対的な色を測定できるため、極めて高い精度を誇ります。しかし構造が複雑・かつ部品も多いため、非常に高価になってしまいます。
測光方法とは別に、キャリブレータに光源が内蔵されているか否かも重要なポイントです。 パッシブ型は光源を持たないキャリブレータで、発光体(ディスプレイ・プロジェクタ)のみ測色することができます。 アクティブ型(自発光型)は光源を持っているキャリブレータで発光しない媒体(紙などの物体)も測色できます。
1万円強 / カラーフィルタ方式 / パッシブ型 / 環境光測定対応
グレタグマクベス ヒューイ は「キャリブレータ」ではなく「自動モニタ最適化ツール」というジャンルに属しています。
つまり正しい色を表示するためではなく、見やすい表示を提供するためのアイテムとして販売されています。そのため、カラーマネージメントを始めるぞ! と意気込んでいるみなさんには無縁の代物です。
3万円強 / カラーフィルタ方式 / パッシブ型 / 環境光測定対応
グレタグマクベス アイワン ディスプレイ2(旧名称:i1)は、おそらく世界で最も使われている定番中の定番なキャリブレータ入門機です。
数年前までは、とても個人の趣味レベルに出せる値段ではありませんでしたが、大幅な価格改定が続き、いまでは3万円ちょっとで購入することができます。
良い時代になったものです。さらにこの価格にしては珍しく環境光測定に対応しています。(室内の明るさ・色温度を測定できる。)
またナナオやNEC などのハイエンドディスプレイのハードウェアキャリブレーション用 推奨キャリブレータにも指定されています。価格・性能・機能・信頼性・互換性、すべてにおいて申し分なく、
個人的に一番おすすめするキャリブレータです。
1.5万円 〜 5万円 / カラーフィルタ方式 / パッシブ型
カラービジョン スパイダー2 シリーズは、用途に合わせて3つのグレードが用意されています。しかし付属するキャリブレータはすべて同一ですから、 センサ自体は 1.5万円以下の価値しかない事が分かります。
下記の表で最も重要なのは「モニタRGB調整支援」という項目です。詳しくは次章で説明しますが、キャリブレーションは始めにディスプレイプレイ本体の設定を追い込み、 それでは補正しきれない部分をコンピュータで行うのが常識ですが、「express」・「suite」ではこの行程ができません。これはキャリブレータとしては致命的です。 となると事実上「PRO」を買うことになります。
つまり、Spyder2express 、Spyder2 suite はディスプレイ以外のカラーデバイス、例えばプリンタの出力結果とカラーマッチングをしたい人は絶対に買ってはいけない製品です。
スペックシートを見る限り、測定精度は Spyder2 付属センサーの方が高いようですが、ナナオやNECのハイエンドディスプレイではとりあえずサポートされるものの「精度が低いので画質優先のキャリブレーションはできません。」とアナウンスされています。また広色域ディスプレイは正確に測定できないため、近年普及し始めた広色域液晶ディスプレイ(NTSCカバー率 90%超)で使う方も i1Display 2 がよいでしょう。また、Spyder2シリーズはライセンスに非常に厳しい製品で、 キャリブレータ1つで複数のPCのディスプレイをキャリブレーションすることができません。
Spyder2 express | Syper2 suite | Syper2 PRO 2006 | Eye-One Display 2 | |
---|---|---|---|---|
実売価格 | 15k円 | 30k円 【生産終了】 |
50k円 【生産終了】 |
33k円 |
色温度指定 | 6500K 固定 | 5000K/6500K/Native | 4000〜13000K | 4000K〜10000K/Native/Measure |
ガンマ値指定 | 2.2 固定 | 1.8 / 2.2 | 0.5 〜 3.0 | 1.0 〜 3.0 |
ガンマ曲線ターゲット指定 | × | × | ○ | ? |
モニタRGB調整支援 (モニタRGBカラーキャリブレーション |
× | × | ○ | ○ |
マルチモニタ対応 | × | × | ○ | ○ |
環境光測定 | × | × | ○ | ○ |
プロジェクタ対応 | × | × | ○ | × |
平均測定誤差 (x,y) | 0.0035 | 0.004(0.006以上は修理対象) |
5万円 / カラーフィルタ方式 / パッシブ型
Spyder3 シリーズは、Datacolor(旧ColorVision)から 2008年1月にリリースされた最新のカラーマッチングソリューションです。Spyder3Elite は、旧Spyder2 PRO 相当の機能を持っており、白点色温度・ガンマ値・輝度を自由にセットすることができます。さらにCRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、ラップトップコンピュータ、そしてプロジェクタにも対応しています。また、新しく追加された環境光専用センサにより、環境光を考慮したキャリブレーションが出来るようになったため、印刷物とのカラーマッチングに役立ちそうです。
まず驚くのが測定器の小ささで、Spyder2シリーズの2/3以下になっています。しかしセンサは2倍以上の規模になっています。そのため、より高い精度で測定ができ、キャリブレーション時間も大きく短縮しています。また測光面積が大きいため、ディスプレイのムラによる誤差も平均化することができます。
Spyder2 測定器 | Spyder3 測定器 | Δ | |
---|---|---|---|
平均測定誤差 ( x,y ) | 0.0035 | 0.0025 | 30% 向上 |
測光エリア | 165 mm2 | 372mm2 | 250% 向上 |
初回キャリブレーション時間 | 7 分 | 5 分 | 30% 高速 |
再キャリブレーション時間 | 7 分 | 2.5 分 | 65% 高速 |
環境光検出器 | なし | あり | 新機能 |
8万円 / スペクトル方式 / アクティブ発光型
Datacolor社の分光測定器です。RGB LED光源を使っているため、Eye-One Pro のようにウォームアップが必要ありませんし、経年劣化による測定誤差も少ないことを売りにしています。しかし大人の事情により、この測定器でディスプレイをキャリブレーションすることは出来ないため、ディスプレイのカラーマネージメントだけを行うユーザには無縁の製品です。測定精度は回折格子を用いた完全な分光測定ではないため若干 Eye-One Pro より劣ります。
12万円〜 / スペクトル方式 / アクティブ発光型 / 環境光測定対応
スペクトル方式を採用した最強のキャリブレータ:Eye-One Pro は数種類の総合パッケージとして販売されており、最も安い(構成がシンプル)Eye-One Design ですら 12万円以上します。
そのかわり精度は抜群です。また、自発光式なためプリンタやデジタルカメラ、さらにスキャナのキャリブレーションも出来る優れものです。
(とはいえ、すべての機能が利用できる Eye-One Workflow は40万円するんですけどね・・・。) もちろん、ディスプレイのキャリブレーションだけに本機を買う人はいませんし
、趣味でこれを買う人もほとんどいません。ちなみに海外ではなんと500ドルから、Eye-One Display 2 は 200ドルで販売されています。(円安とはいえ、どこが儲けてるんでしょうねぇ・・・)
※ 各製品の写真はそのメーカー・通信販売店のウェブサイトから引用したものです。
i1Display 2 | i1Design (旧モデル) |
i1Photo LT | i1Design LT | i1Photo / i1Photo SG | i1Proof | i1XT | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
スキャナプロファイル作成 | × | Opt | Opt | Opt | ○ | ○ | ○ |
RGBプリンタプロファイル作成 | × | △ | △ | ○ | ○ | △ | ○ |
CMYKプリンタプロファイル作成 | × | △ | △ | △ | △ | ○ | ○ |
デジタルカメラプロファイル | × | Opt | Opt | Opt | Opt/○ | Opt | ○ |
プロジェクタプロファイル | × | Opt | Opt | Opt | ○ | ○ | ○ |
[付属品] Mini ColorChecker Chart | × | - | - | - | ○ | - | ○ |
[付属品] ColorChecker SG | × | - | - | - | - / ○ | - | ○ |
[付属品] ビーマー用アクセサリ | × | - | - | - | - | - | ○ |
[ソフト] i1Match Profile Editor | × | - | - | - | ○ | ○ | ○ |
X-rite huey | i1Display 2 | Spyder2express | Spyder3Elite | i1 Design LT | |
---|---|---|---|---|---|
価格 | ◎ (12k円) |
○ (36k円) |
◎ (15k円) |
△ (50k円) |
× (142k円) |
測定精度 | × | ○ | △ | △ | ◎ |
設定自由度 | × | ◎ | × | ◎ | ◎ |
互換性 | × | ○ | △ | △ | ◎ |
表を見て明らかなとおり、安くて良いなんて製品はありません。値段だけに釣られて「安物買いの銭失い」にならないように十分気をつけてください。(※ 価格は2008年2月時点)
さきほど、カラーフィルター測色方式では高純度色の計測に誤差がでてしまうことを説明しました。 では、カラーフィルタ方式とスペクトル方式の代表的キャリブレータである、グレタグマクベス「i1Display 2 測定器」と「i1Pro 測定器」で 広色域液晶ディスプレイ「EIZO ColorEdge CG221」をキャリブレーションしたときの計測差を見てみましょう。
左図をご覧下さい。暗くなっている三角形がナナオが公表しているCG221本来のガマットです。赤線・青線で囲まれた三角形は各測定器による実測値です。 i1Display 2 ではグリーン純点がシアン側にシフトしています。 またブルーの色純度が僅かに低く測定されています。従来の液晶ディスプレイは、グリーンやブルーの色域が狭かったため大きな問題になりませんでしたが、NEC LCD2690WUXi や、 EIZO ColorEdge CG241W、MITSUBISHI RDT261WH、I-O DATA LCD-MF241X など続々登場する AdobeRGBセミサポートディスプレイでは少し誤差が大きくなってしまうそうです。
またアイワンシリーズの元日本代理店である「恒陽社グラフィックス:現 KGSolutions」の協力で、私が所有する Eye-One Display 2 の固有誤差を調査していただきました。いただいたデータシートによると、xy平面において 赤は (-0.017, -0.0021)、緑は (+0.0073, +0.0080)、青は (-0.0016, +0.0026) の誤差があるそうです。 やはり高純度グリーンの誤差が目立ちます。レッドとブルーはほぼ問題ないでしょう。同社によると私の i1D2 は平均的な個体よりも精度が高いそうです。
しかし、もっと正確に測りたいから言ってスペクトル方式(分光方式)のキャリブレータは簡単に買える値段ではありません。 個人的には、印刷・出版・デザイン 等に関わるエキスパートではない限り、カラーフィルター方式キャリブレータでも十分な効果が得られると思います。 (もちろん、予算がたんまりある人は i1 Pro を買う方がよいでしょう。)
また、EIZO CG241W、NEC LCD2690WUXi などのディスプレイでは、カラーフィルター式のキャリブレータにより発生した誤差をソフトウェア的に補正したり、信頼性の低いデータを破棄して広色域ディスプレイに対応させています。
以上、様々なキャリブレータを紹介しましたが、安価なキャリブレータは精度が低かったり、設定できるパラメータが著しく制限されることがあることが解っていただけたと思います。huey や、Spyder2 Express などは、Amazonカスタマーレビュー・価格.com 口コミ掲示板・2ちゃんねる・個人のブログなどを見ても、満足した結果が得られず嘆いている人をよく見かけます。また、より高価なキャリブレータに買い換えた人も少なくありません。まさに安物買いの銭失いだと言えます。
もし予算がなくて i1Display 2 レベルのキャリブレータを買えないなら、むしろキャリブレータ買わずに手動調整することをおすすめします。Windows ユーザなら Adobe Systemsの「Adobe Gammma」、Mac ユーザならOS付属の「ディスプレイキャリブレータアシスタント」で目視による調整が行えます。私が手持ちのディスプレイで、i1Display 2による補正と、ColorSync ディスプレイキャリブレータ・アシスタントによる補正を比べましたがガンマ補正はほとんど完璧に行えました。ホワイトバランスなら部屋の照明や、マッチングさせたいプリンタ用紙を見ながら追い込めば良いだけです。
ちなみに Adobe Gammma は開発が終了しており、Creative Suite 3 以降バンドルされなくなっています。また液晶ディスプレイの調整は非推奨となっているため、どれだけ使い物になるかはわかりません。Macユーザの方は、システム環境設定のディスプレイから「カラー」を選び「補正」ボタンを押せばアシスタントが起動します。こういうソフトがさりげなく用意されてるのもマックらしいですね。
当サイトでは「アイワンディスプレイ2」というキャリブレータを、「Eye-One Display 2」と「i1Display 2」の2種類で表記しています。これは何故かというと、アイワン発売当初、製造販売元のグレタグマクベス( GretagMacbeth )社は「i1」ブランドを使っていましたが、後に「Eye-One」ブランドに変更しました。そのため当サイトでは新ブランドである「Eye-One」を採用し表記していましたが、2006年に「i1」ブランドに再変更されました。そのため当サイトを含め、多くのウェブサイトや雑誌、販売店などで2つの表記方法が混在しています。(2008年1月現在、まだ "eye-one" で検索した方が多くの情報が集まります。)
また、OPTIX XR 、EZColor などを販売していたMonaco社と、アイワンシリーズや ColorChecker Chart を販売していた GretagMacbeth 社は、X-rite 社と経営統合(吸収合併)し、モナコ社製品はディスコン(販売終了)、グレタグマクベス社製品は X-rite ブランドとして販売されています。
さらに日本国内において、いままで「恒陽社 グラフィックス事業部」という企業がアイワンシリーズの総代理店になっていて、本国の2倍以上(マージン100%!!)という価格で売りつける"アレ"な企業として有名でしたが、これも GretagMacbeth社買収とともに販売権が X-rite 本社に返還され、現在では X-rite 直々に販売されています。(値段はそのまま・・・。) ちなみに、アイワンの独占販売権を失った後、恒陽社グラフィックス事業部は2007年に社名を「KGSolutions」に変更しました。
また、Spyderシリーズや、PrintFIXシリーズを販売していた「ColorVision」社は、datacolor社に買収され、Spyder3 以降「datacolorブランド」に統一されています。いやはや、ややこしい世界ですね・・・。
それではお待ちかね、キャリブレータを使ったディスプレイのキャリブレーション実践編です。今回は X-Rite i1Display 2 と、その付属ソフト「Eye-One Match」を使ったソフトウェアキャリブレーションを行います。
※ ハードウェアキャリブレーション対応機種の場合、プロセスが全く違います。
この記事は「パソコン入門講座」でないのでとばしますね。Macでは USBドライバをインストールする必要ありません。付属アプリケーションは、キャリブレーションを行う「Eye-One Match」と、ガンマ補正テーブルをロードするユーティリティがインストールされます。Macでは ColorSync ですべて行えるため、最終的にインストールされるのは Eye-One Match だけです。
もし AdobeGamma などがすでにインストールされている場合、機能が衝突する場合があるので必ずアンインストールしてください。
キャリブレータはUSBポートに指すだけです。Windows ではドライバが自動的に割り当てられます。Mac では特に何のアラートもでませんがちゃんと認識されています。
1. Eye-One 測定器を接続した状態で、Eye-One Match を起動します。まず設定モードをどうするか聞いてきますが、これは特に理由がない限り「詳細モード」にします。
2. ディスプレイの種類を設定します。もちろん「LCD」を選択します。
3. 輝度・色温度・ガンマ値 を設定します。これはみなさん自身が決めた値を入れてください。特にこだわりがない場合は「ガンマ:2.2」、「輝度:80〜120 cd/m2」にセットしてください。白色点はデジタルカメラのカスタムホワイトバランス補正と同様に、測定器で室内の色温度を計測しそれに合わせることができるので、この機能を利用します。
白色点タブから「カスタム」を選びます。この画面で「アンビエントライト測定」をクリックして環境光の色温度を計測します。このとき、必ず「アンビエントライトヘッド」(白いプラスチックのアタッチメント)を装着して計測してください。計測する際はキャリブレータをセンサが上になるようにして机に置きます。このとき近くに物や手を置いてはいけません。(反射光で色がずずれてしまうため。) 何度か計測して、しっくりする色温度を探してください。しかし、環境によっては色温度が低めに検知され、画面全体が黄ばんだ感じになることがあります。気になる場合は、色温度を検出値の +100〜300K に設定しても良いでしょう。
また、設定画面で環境光を測定するかどうかを指定できます。初めてキャリブレーションする場合はぜひ実行しましょう。測定を行う場合は「アンビエントライト測定の実行」にチェックを入れます。
4. アンビエントライトの測定を行う場合は、指示に従って計測を行います。
5. Eye-One 測定器をディスプレイにセットします。セットする前に必ず画面の掃除を行いましょう。USBケーブルに付属のウエイトをセットし、計測器がずり落ちないようにします。なるべく計測器と画面が密着しているのが理想です。もし、浮いてしまっている場合や、測定中にずれてしまう場合、正しいキャリブレーションが行えません。
6. コントラストの設定を行います。コントラストを100% にしたあと「スタート」ボタンを押します。測定器の調整後インジケータが表示されるので、これが最も中央になるようにコントラストを調整します。
7. 同様に輝度を調整します。もしディスプレイの輝度を目一杯下げても目標輝度まで下がらない場合は、諦めるか、RGBゲイン均等に下げて調整します。(この場合、コントラスト比が低下します。)
8. 同様にRGBゲインを調整します。ディスプレイの表現力を最大限生かすには、R・G・Bいずれかの値が 100% になるように調整します。
9. 以上の設定が終わると、あとはキャリブレータとソフトウェアが何十パターンの色を測定していきます。測定にはおよそ3分かかります。
10. 測定結果が表示されます。ここではガンマ補正カーブ(ガンマ応答カーブではないことに注意!)、ガマット、白点色温度・ガンマ・輝度・環境光の色温度・輝度 が表示されます。スクリーンショットを撮っておくと良いでしょう。
キャリブレーション結果の下には、保存する ICCプロファイルのファイル名を指定します。デフォルトでは「Monitor_07.7.7_1.icc」というような名前が付いていますが、"Monitor" をディスプレイの型番等にしておくと便利です。
リマインダーを設定すると、キャリブレーションしてから指定時間経過したときに、再キャリブレーションするよう促してくれます。液晶ディスプレイの表示は比較的安定しているため、1ヶ月に1度 程度で構いません。色にこだわる人なら、2〜3週間毎に行います。
「適用前&適用後」ボタンを押すことで、キャリブレーション前と後の比較が行えます。
11. 「次へ」ボタンを押せば、ICCプロファイルが保存されキャリブレーションが終了します。
そのあとは、ファイルメニューから「バリデータの起動」を選択します。すると、GretagMacbeth MonitorValidator というソフトウェアが起動します。このソフトはキャリブレーション精度を検証するソフトウェアです。
「測定の開始」をクリックし「LCD」を選び、測定を開始します。このソフトウェアでは「dE2000」というテストセットを使って精度を検証します。dE(ΔE)とは「色差」と呼ばれる色空間上の距離を表す数値です。dEは、1.0未満で人には判別できないほど小さな差、1.0〜2.0以上で非常にわずかな差、3.0〜5.0ですぐに分かる差、5.0以上で並べて見比べなくても分かるほど大きい差 とされています。ディスプレイの平均dEは、一般用途では dE 2.0 未満、シビアなグラフィックデザイン用途には dE 1.0未満 が望ましいです。
またこのソフトは過去の測定履歴がグラフで表示されるため、ディスプレイの経年劣化や故障を確かめることができます。
オペレータ(あなた)はキャリブレーションソフトの指示でいくつかの簡単な操作をするだけですが、実はソフトウェアキャリブレーションは意外にコツが必要です。あなたが多少悪いセッティングを行っても、それはガンマ補正で吸収されます。(ある程度までは。)しかし、大きなガンマ補正をするほど色の劣化は大きくなる事を忘れないでください。
まずキャリブレーション結果表示画面の「色温度」よび「ガンマ値」を見てください。目標値と現在値が一致しているでしょうか?これが一致していない場合、キャリブレーションは失敗していると言えます。やり直しです。 ただし、あまりに安価なディスプレイの場合、ディスプレイのクセを補正しきれず、どうしても値が一致しない場合もあります。(もちろん、そんなヘボモニタではカラーマネージメントなんぞ出来ませんので、買い換えをオススメします。)
次にその上のガンマ補正カーブを見てください。ここで注目するのは原点(左下)と頂点(右上)です。R・G・Bすべてがこの2点に接しているでしょうか? 接していない場合、RGBゲイン設定が失敗しています。もし原点(0-0)がズレている場合ディスプレイの「RGBオフセット」値を、頂点(255-255) がズレている場合は「RGBゲイン」値を見直してください。
▲ RGBゲインの設定が不適切な例(特に緑が強すぎる)
機種名 | ガンマ補正曲線 | 評価 | データ引用元・測定備考 |
---|---|---|---|
NEC MultiSync LCD2690WUXi (IPS,17万円) |
◎+ (※1) |
Eye-One Display 2 |
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20万円以下の製品中、最もガンマカーブが美しく、ガンマ補正の必要性を感じません。 (他のユーザが計測したデータも、とてつもなく正確なカーブでした。) |
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EIZO ColorEdge CG241W (VA,19万円) |
◎ (※1) |
デジタル@備忘録 / ☆Orca☆ 様 | |
不評だった前作 CE240W と同じ傾向ですが、ハイライトが白飛び気味なのが気になります。 | |||
Apple 23-inch Cinema HD Display (IPS,11万円) |
◎ | DOS/V POWER REPORT / Impress Eye-One Pro |
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低調がわずかに下がり気味ですが、非常に優秀。 | |||
I-O DATA LCD-MF241X (VA,12万円) |
◎ |
Eye-One Display 2 |
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わずかな揺らぎがあるものの、非常に優秀。 | |||
EIZO FlexScan HD2441W (VA,12万円) |
○ |
Eye-One Display 2 |
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中間調がやや持ち上げられていますが、そこそこ優秀。 | |||
MITSUBISHI |
○ |
Eye-One Display 2 |
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一部でわずかに揺らいでいるものの優秀。 | |||
EIZO FlexScan S2411W (VA,12万円) |
△ | EIZOチャンネル / ITmedia Eye-One Display 2 |
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全体的にかなりアンダーに絵作りされてしまっています。これはいただけない。 ( DOS/V POWER REPORT でも同様の結果が掲載されているため個体差・測定誤差ではない模様) |
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DELL |
× | DOS/V POWER REPORT / Impress Eye-One Pro |
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お見事なS字カーブ型の絵作り。グラフィックデザインにはとても使えません。 | |||
参考:EIZO T766 (CRT) |
◎ | 筆者測定 Eye-One Display 2 |
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CG241Wよりも正確で、非常に優秀。 |
※ 各データは「データ引用元」欄に記載したウェブサイトから比較・研究の目的で引用致しました。
※ 各データは製品の個体差、測定者の技術力、測定器の精度があるため公平な比較はできません。
※1 : これらの機種はハードウェアキャリブレーションに対応していますが、ここでは条件を揃えるためにソフトウェアキャリブレーションを行っています。
また、参考のため EIZO の 19インチCRT : T766 のガンマカーブも載せておきました。ところで、ナナオは自社の液晶ディスプレイを売るために、極めて怪しいデータを持ってきて過去に自分たちが丹誠込めて作ったCRTの性能を批難しています。個人的に、大きな悲しさやむなしさを感じます・・・。 T766 はナナオ全盛期が終わってしまった後に販売されたモデルで、画質はイマイチと評価されていますが、これだけ正確なカーブをだせます。CRTはバリバリのアナログデバイスのため、ケーブルの品質・差し方、CRTの向き、環境(地磁気・周辺の電子機器からでるノイズ 等)、グラフィックボードの性能 など多くの条件が良くそろわないと本領を発揮できないデバイスです。もちろん、未だにアナログレコード愛好家がいるように、最高の条件を与えればデジタルよりも高い画質をたたき出します。このことから、簡単に安定した品質を出せる液晶ディスプレイを売り込めばよいものの、「ほーら、てめえのブラウン管ディスプレイはこんなクズなんだよ!」と言わんばかりのこの記事に、大きな不快感を持ちました。(そもそも、この記事に出ている T966 の性能が本当であれば、これは故障品です。)
これ以降のトピックは「液晶ディスプレイとカラーマネージメント 3ページ目」をご覧下さい。