液体のまま注射器で体内に注入すると、速やかにゼリー状になる高分子素材を、東京大と筑波大の研究チームが開発した。毒性が低く、長時間体内にあっても副作用を起こしにくいため、網膜剥離など眼科手術で応用が期待される。論文は9日付の英科学誌に掲載される。

 眼球の内部は、コラーゲンでできた透明でゼリー状の硝子体で満たされており、目の形状や圧力を保っている。網膜剥離などの手術の際には、硝子体の一部を切除して治療し、ガスやオイルなどの代替物を充填(じゅうてん)するが、比重の違いなどから患者は数日間うつぶせの姿勢を強いられ、数カ月後に充てん物の抜去手術が要るなど負担が大きかった。

 東大の酒井崇匡准教授らは、混ぜ合わせると網目構造を作り、網目の中に保水して透明のゼリー状になる2種類の高分子に着目。生体への刺激を抑えるため、高分子を低濃度に抑えた。

 濃度が低いと固まるのに時間がかかるため、固まる直前まで反応させた2種類の溶液を用意し、混ぜ合わせて10分程度でゼリー状になる素材を開発した。

 ウサギを使った実験では、網膜剥離を治療できることや、1年以上経過しても炎症などの異常が起きていないことが確認できた。