六本木ヒルズのけやき坂沿いに、高さ5m、全長50mの真っ白なガラスの“壁”があるのをご存知だろうか。「カウンター・ヴォイド」と名づけられたこのコーナーは現代美術家・宮島達男さんの作品で、デジタル数字によるカウントダウンが表示されていた六本木を代表するランドマークの一つ。2011年の東日本大震災をきっかけに消灯されていたが、昨年3月11日に5年ぶりに再点灯。6年目の今年も、3月11日~13日の3日間限定で点灯される。
「カウンター・ヴォイド」を2011年に消灯し、昨年2016年に5年ぶりに再点灯したのはなぜなのだろうか。まず「カウンター・ヴォイド」再点灯にあたり発足した「リライト・プロジェクト」を主催する特定非営利活動法人インビジブル林曉甫さんにお話をうかがった。
消灯していることすら知らない人が増えてしまった
3.11を思い出し、未来をどう生きていくか考える機会になる
林 「作品自体は知っていたという方も、再点灯を見て初めて消えていたことを知ったという方が多くいましたね。また『カウンター・ヴォイド』前でワークショップなどを行っていたことから、『毎年3月11日という日が東日本大震災の当時を思い出すだけの日ではなく、未来をどう生きていくか考える機会になることはいいことだね』とおっしゃってくださる方もいました。今年は『Relight Days 2017』と題して3月11日~13日の3日間、『カウンター・ヴォイド』前で『3.11が■ている。』ワークショップを行います。これは鑑賞していただいた方に『3.11が■ている。』と書かれたシートの■の部分に思い浮かべた言葉を書いていただき、SNSに投稿してもらうというものです」
そして今年3月11日の14時46分、6年前の震災発生時刻に再び点灯された『カウンター・ヴォイド』。点灯時には作者の宮島達男さんも立ち会った。
宮島さんが2017年の今感じている、被災地や被災者への思いとは?
宮島 「時間が経ってどんどん記憶が薄れていくのは仕方がないことなのかもしれない。けれどあの当時、自分たちが3.11の大震災を受けてどういう気持ちだったのかをもう一度思い出してほしいと思うんですよね。というのも、僕自身が3.11にものすごくショックを受けて、その後の作品制作のやり方そのものや考え方もかなり変わったんです。たぶんみんながいろんな意味で心を揺らされたできごとだったと思いますし、当時みんながいろんなことを自分なりに考えていたと思うんですが、それが全部なかったことのようになってしまっているのがちょっと残念だなと思うんです。だからこの再点灯をきっかけに、もう一度あの当時の自分が考えていたことを思い出してもらえたら」
文化や芸術の力で被災者の心のケアを
宮島 「あれから6年経って、被災地でもある程度のインフラ整備はできてきていると思うんです。福島の帰還困難区域もだいぶ縮小されてきましたし、まだまだな部分ももちろんあるとは思いますが……。だけどここからは、被災地の方々が生きていく上でのソフト的な部分である心のケアが大事になってくる。そこがおそらく、文化や芸術の力が担える部分なのかなと思っています。心に重荷や傷を抱えた方たちに寄り添っていけるような何か、支えていけるような何かが必要なんだろうと感じていますね。そういう意味で東北で作品を作ることで被災地の方たちと関わりをつなげていきたいですし、被災地以外の方たちにも関わりを持ってもらうための仕組みとしてクラウド・ファンドを活用したいと考えているんです」
宮島さんのデジタル・カウンター作品は9から1までをカウントし、0は表示されずに暗闇となり、また9に戻る仕組みになっている。カウントしている時間は「生」を、暗闇になる時間は「死」を表現しているのだが、「死」は命の終わりではなく、次なる「生」の準備期間という意味を込めているのだそうだ。「カウンター・ヴォイド」とはテーマが異なるが、宮島さんの新作シリーズが観られる個展『LIFE (complex system)』も、4月22日まで谷中のSCAI THE BATHHOUSEで開催されているので、気になった方は合わせて足を運んでみてほしい。
2011年3月11日から6年経ち、世間は平穏を取り戻したようにも見える。しかし被災地の復興が終わっていないのはもちろんのこと、それに絡むさまざまな問題には未解決のものも多い。「カウンター・ヴォイド」を観ながらいま一度、まだ終わらない震災について考えてみて欲しい。
●Relight Days 2017
●宮島達男個展 LIFE (complex system)