たとえば、よく笑う赤ちゃんを見ていたら気持ちがパッと明るくなったり、怒りっぽい人と一日一緒にいたら自分までイライラしはじめたり...。
意識的/無意識的のどちらにせよ、さまざまな感情が人から人へ伝染するといった話はなんとなく聞いたことがありますよね。喜怒哀楽から緊張感や恐怖心まで、私たちが最も影響されやすいのはどんな感情なのでしょうか。
さまざまな分野の専門家にその見解を尋ねてみる「Giz Asks」シリーズ。今回は、人類学、動物行動学、脳科学、認知神経化学に詳しい4人の専門家に話を聞いてみました。
【Giz Asks】 どうして自分はロボットじゃないって本当に言い切れる? 専門家に聞いてみた
Kerry Bowmanトロント大学生命倫理学教授、Canadian Ape Alliance代表。
---------------------------------------これは人類だけでなく、ほとんどのサルやチンパンジー、ゴリラなどの大型類人猿、さらにおそらく何万年も前から人類と共に暮らしてきたことから犬も含めて研究されてきた分野だといえる。
ネガテイブな感情がうつりやすい理由には、進化が関係している。
社会的な階級の移り変わりや怒りの感情があると、変化や捕食者、危機への順応が起こりやすくなる。そのため、人間をはじめ霊長類にとっては感情の変化を読み取ることが重要な能力だ。
感情が変化するとき、多くの場合は無意識だ。多くの人は、今まさに感情が変化していること、それが他者からの影響を受けて起きていることに気付いていない。これには、危ない一面もある。ポジティブな感情は周囲に多大な影響を与えるが、その逆も起こりうるためだ。
鬱々とした人は多くの場合、本人が気づかない間に周りの人を憂鬱な気持ちにすることがある。異なる人々と関わるなかで、そうした感情の変化に気がつくことはできるし、意識的に鍛えることだってできる。これは心理療法の世界で「感情転移」という概念にきわめて近しい。
多くの人々は、感情が個人的なもので、性格や考え方など人によるものだと考えている。他者の感情に影響されるということを過小評価しすぎていて、自分の感情の変化に気付かず、自分には免疫があるのだと思いこむ傾向がある。あらゆることに対する自分の感情は自分自身が決めていると思っているが、実は我々は常に操られやすく、影響を受けやすいのだ。
Team W, Inc.所属の行動科学者。
---------------------------------------自分の感情が他者の感情に影響されるということはさまざまな研究でも示されていて、たとえばPsychiatry Researchで公開されている研究によれば、悲しい顔や幸せそうな顔をした写真を見ると同じような感情が湧いてくることがBarbara Wild、Michael Erb、Mathias Bartelsらによって実証されている。
特定の感情を抱いている人と接したり表情に気づいたりすると、あなた自身も相手の気持ちに影響を受けることがあるだろう。それが物理的に近くにいる人だったり、実際に顔を見たり声を聞いたりするとき、感情は最も伝染しやすくなる。それに比べれば影響力は弱まるものの、読むという行為(フェイスブックの投稿やツイートなど)も同様に感情移入させる効果がある。
感情が強ければ強いほど、伝染する度合いは増すだろう。
これは、共感を起こすミラーニューロンの働きにより、脳内で感情をコピーするような状態になるためだ。(写真や対面で)感情を露わにした人の顔を見たとき、我々は同じようにして表情筋を動かす傾向がある。この無意識的な動きが感情となるのだ。これは、たとえば悲しいときに背中が丸まったり、顔の表情も悲しげになったりするのに対して、悲しくないとき意識的に同じ動きをすると次第に本当に悲しく感じてくるのと同じことだ。
上述の研究によれば、感情が視覚的に現れると、他者に伝染する影響力は強まり、他者は同じくらいの熱量で同じように反応するという。また喜怒哀楽のような感情は伝染しやすく、信頼や不信感など複雑な感情は比較的うつりにくいとされている。
コロラド大学 生態学・進化生物学名誉教授、『Rewilding Our Hearts: Building Pathways of Compassion and Coexistence』、『The Animals’ Agenda: Freedom, Compassion, and Coexistence in the Human Age』の著者。
---------------------------------------私は犬の研究をしているが、彼らが遊んでいるのを見ると一緒になって遊びたくなり、感情移入して犬のパッションや喜びを感じられる。これはおそらく私たちが同じ哺乳類で、歓喜や幸福感につながる神経ネットワークや神経化学物質を共有しているためだろう。同じようにして、人間やほかの動物が落ち込んでいるのに同情することもあるだろう。
ケニア北部にあるサンブル国立保護区に住む野生のゾウを見たとき、それまでは野生のゾウを目にする機会こそ少なかったが、深い悲しみを感じたことがあった。そのゾウは幸せそうには見えなくて、一緒にいた世界トップレベルのゾウの専門家Iain Douglas博士に話を聞いてみると、どうやら最年長でリーダー格だった雌ゾウが亡くなったばかりだそうだ。最初に見つけた1頭だけではなく、ほかのゾウの仲間も悲しそうにしていたよ。
デューク大学進化人類学助教授、デューク脳科学研究所認知神経科学センターのメンバー。
---------------------------------------チンパンジーの一種にボノボというのがいる。1匹が叫ぶと、脅威を感じたのか2番目に叫びはじめたやつがいた。実際に危険なことに直面したわけでもないのに、恐怖心が伝染したのだろうか。真相は知り得ないが、どんな霊長類にとっても脅威や怒り、歓喜などの感情には顔の表情や筋肉を使って反応してしまうもので、このことは社会的に重要な役割を持つ。
一方で、人間以外の動物(または言葉を知らない新生児など)が抱くプライドや恥、嫌悪感などもっと抽象的な概念には、形態学や非言語的な行動が伴わず、わかりづらいものだ。ちょっとだけ科学者らしからぬことを言うと、動物だって恋に落ちたり嫉妬したりするんだ。こうした感情もまた、伝染しやすいものだろう。
top image: Jim Cooke/Gizmodo US
Sophie Weiner - Gizmodo US [原文]
(Rina Fukazu)