アダルト動画サイト「カリビアンコム」で、無修正のわいせつ動画を配信したとして、サイトを運営するグループの社員で、アメリカ国籍の男性が3月上旬、わいせつ電磁的記録等送信配布の疑いで逮捕された。
報道によると、男性は昨年8月、無修正のわいせつ動画をカリビアンコムで配信した疑いが持たれている。日本で撮影された動画データを、配信前に圧縮する作業などをしていたという。アメリカから旅行で沖縄県を訪れたところを逮捕された。
カリビアンコムは、日本で違法の「無修正」のわいせつ動画を配信することで問題となっていたが、無修正が合法のアメリカにサーバがあるため、摘発が困難とされていた。運営側の人物が逮捕されることは初めてということだ。なぜ今回、摘発されたのだろうか。奥村徹弁護士に聞いた。
●アメリカにいる「共犯者」を処罰できるメカニズム「今回摘発されたサイトとは別ですが、日本国内で撮影したわいせつ動画をアメリカにいる共犯者が管理する動画サイト(日本語表記)にアップして、ダウンロード販売するという販売方法について、最高裁は、日本の刑法の『わいせつ電磁的記録等送信頒布罪』(刑法175条1項)が適用される、という判断を示しています(最決2014年11月25日)。
そもそも、『わいせつ電磁的記録等送信頒布罪』には、国外犯を処罰する規定がなく、原則として、アメリカにいる人には適用されません(刑法2条1項)。
しかし、日本国内の共犯者と『共謀共同正犯』(犯罪の実行行為はしていないが、犯罪を一緒に企んだ)という関係にある場合には、共犯者全員を一体の行為として、その一部が日本国内にかかっていれば、日本の刑法が適用されることになります。この場合、アメリカにいる共犯者を処罰することが可能になります。
一方で、無修正のわいせつ画像の販売については、アメリカでは適法行為です。日本刑法で処罰することになると、『表現の自由』を重視するアメリカの立法政策に反するおそれがあります。
ですが、判例は、日本国内の共犯者とアメリカにいる共犯者とが、共謀のうえでおこなった場合について、具体的に法律をあてはめた『事例判決』と理解されています。
なお、アメリカ国内の共犯者については、日本国外にいるかぎり、日本の警察に逮捕されることはなく、今回は、たまたま日本国内に立ち入ったために逮捕されたものです」
●業者側は「抜け道」を模索することに「先ほどの最高裁決定の事案は、次のようなものでした。
『日本在住の被告人は、日本およびアメリカ在住の共犯者らとともに、日本国内で作成した『わいせつな動画』のデータファイルをアメリカ在住の共犯者のもとに送って、同国内に設置されたサーバコンピュータにそのデータファイルを記録・保存していた。
さらに、日本人を中心とした不特定かつ多数の顧客にインターネットを介して、そのデータファイルをダウンロードさせる方法で、有料配信する日本語のウェブサイトを運営していたところ、日本国内の顧客が、同サイトを利用して、わいせつな動画のデータファイルをダウンロードして、同国内に設置されたパーソナルコンピュータに記録・保存した』
今後は、このケースに似たような業態については、次々に摘発されると思います。
ただ、日本国内に共犯者をもたず、アメリカ国内から日本人が出演するわいせつ動画を日本語サイトでダウンロード販売することについては、最高裁決定は及ばないと思いますので、業者側はそういう抜け道を模索することになるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
奥村 徹(おくむら・とおる)弁護士
大阪弁護士会。大阪弁護士会刑事弁護委員。日本刑法学会、法とコンピューター学会、情報ネットワーク法学会、安心ネットづくり促進協議会特別会員
事務所名:奥村&田中法律事務所
事務所URL:http://www.okumura-tanaka-law.com/www/top.htm