▲2016年2月のThinkPad X1シリーズ発表会に登壇したヒル氏(中央)

ブログのエントリは、ズバリ『Retro ThinkPad: It's Alive』とのタイトルを冠したもの。執筆は、レノボの最高デザイン責任者(チーフデザインオフィサー)兼バイスプレジデントであるデビッド・ヒル氏です。

同氏はIBM時代からThinkPadのデザインに深く関わってきた方であり、また2年前にレトロThinkPad企画の発端となるブログエントリを書かれた方でもあります。


▲こちらは2年前に公開された、当時の構想を元にした予想CGです

レトロThinkPadとは、ThinkPadシリーズが時代に合わせて変化していく中で失われたものの、ファンが残念に思っている設計を復活させるべく企画されたもの。

2年前の時点で予定されていた仕様では、キーボードへの要求がとくに(やはり)多かったらしく、昨今ではノートPCでほぼ見なくなった「厚みのある、非アイソレーションタイプのキートップ」を採用。

さらにいわゆる「7段キーボード」と呼ばれるキー配列や専用の音量キー(など)、そして青色のEnterキーや天面側から照らすキーボードライトなどを「復活」させることを想定していました。

しかし一方でディスプレイのアスペクト比は16:10、本体の厚さは1.8cmを予定するなど、当時の最上位モデルであるThinkPad X1 Carbonや、デザインベースの一つとなっているThinkPad X300/301に通じる携帯性も兼ね備えたモデルとして企画されています。

詳細に関しては、下記記事を参照ください。

古典デザインに最新技術の『レトロ ThinkPad』、製品化への意見募集中

今回の25周年記念ThinkPadは、2年前の時点では製品化への意見を募っていた段階だったこのレトロThinkPad構想が、見事に製品化を果たしたもの。

ヒル氏のツイートや該当のブログエントリタイトル写真では、クラシックなキートップと青いEnterキーを備えており、またパームレスト側のエッジがX300やX1 Carbonシリーズとも異なるように見えるモデルの写真を紹介。なお、ブログ側のファイル名は『Retro_sneak_peek_-01.jpg』となっています。

現行のX1 CarbonやYogaでは下矢印キーの手前に配置されている指紋認証センサーが見えないのが若干気がかりですが、本体が相応に薄そうな点も窺えます。

同氏のブログエントリに書かれた概要としては、

  • 25周年記念モデルとしてレトロThinkPadを作成する
  • 既に開発中のモデルが動いており、タイピングもしてみた
  • ThinkPadの熱烈な愛好家を対象としたモデル
  • 愛好家からの希望の多くを盛り込んだ設計
  • ThinkPadのブラックラバーコーティングを復活
  • TrackPointキャップは3種類を復活
  • keyboard to die for(死んでもいいと思えるほどのキーボード)
  • 価格は発表できないが、噂の出ている5000ドルよりは安い
  • 他にも発表できることはあるが、まだここでは言えない
といったもの。

合わせて、今回の発表タイミング(2年間情報公開が空いた)点については

  • (2年前に提案した)レトロThinkPadについて、意図的に情報は公開しないようにしていたものの、正式なプロジェクトとして進めていた
  • 期間の中で技術的な実現可能性をはじめとする調査を行なっていた
といった旨を紹介しています。

ヒル氏としては、とくに3種類トラックポイントキャップを「復活」させた点がイチオシらしく、同氏のツイートには、昨今のThinkPadでは用意されない凹型の『ソフト・リム』キャップをはじめとする3種が並んだ写真を掲載しています。

また注目したいのは、2年前の時点で、ファンの間でも議論がホットだったRGB三原色のThinkPadロゴ。2年前の時点ではすべてに色が付いており派手だったのですが、今回はPadのみが色付きと、かなりおとなしくなっています。

もともとこの色分けは、初代ThinkPadとなる『ThinkPad 700C』こと『PS/55note C52 486SLC』(日本名)で付けられたもの。IBMのロゴにある3文字をカラー液晶のフィルタ色であるRGB(赤・緑・青)に塗り分けることで、当時は非常に珍しかった「カラー液晶搭載モデル」を示していました。

しかし、ブランド移行により、IBM ThinkPadロゴからThinkPadのみのロゴになった際は、当初から現在の「シルバー+iのドットのみが赤い」色となっています。

2年前の時点では、これを復活(というか設定)すべく、ThinkPadの文字すべてを塗り分けるロゴが提案されていました。が、ファンの間でも「派手過ぎで、むしろThinkPadらしくない」といった意見も出てきたことから、去就が注目されていたポイントの一つでした。

こうした経緯からか今回公開されたデザインは、上述したようにPadのみをカラーとしたもの。ヒル氏のTwitterではロゴのコンセプトスケッチも公開されており、やはり重要なポイントであったことが窺えます。

このようにまだ決して情報は多くない25周年記念ThinkPadですが、これまでの(他社を含めた)ノートPCの限定モデルで見られる特殊仕様や特殊カラーモデルではなく、金型のレベルで大きく異なる、専用設計のモデルとなることは確か。

企画自体も大手メーカー製PCでは類を見ないものだけに、果たしてどれほどのものが出てくるのかは、ThinkPadファンでなくとも注目できそうな話ではないでしょうか。

▲2016年2月の発表会でのヒル氏。ともすれば伏線的でもある、歴代ThinkPadのデザインの流れについて語っています

さて、若干余談となりますが、価格について5000ドルはしないと発表された点から、少しはハードウェア構成の予測ができそうです。

5000ドルというのはおそらく、今回より前に製品化の噂が流れた時点でThinkPad全体のハイエンド的存在だったThinkPad X1 Yoga(2016年モデル)の最上位構成(有機EL搭載モデル)+本体設計がまるで違うことの金型コスト分......といったあたりから出てきたものと思われます。

X1 Yogaの有機EL/米国版は、Core i7/16GB RAM/1TB SSDモデルでも2519.10ドル(原稿執筆時、2017年モデル)となっています。ディスプレイパネルに特注製品を使い(アスペクト比16:10が活きているとしたらですが)、さらに設計や金型代金が乗ったとしても、これだけの差額があれば、基本仕様がこの水準を下回るといったことはなさそうです。

ともすれば32GB RAMに2TB SSDを搭載するといった装備の底上げや、5000ドル以下どころかもっと安価となる可能性もあります(さすがにファン垂涎のモデルとはいえ、有機EL搭載Yogaの倍額までいくと、販売戦略的に難しそうなところもあるでしょう)。

このあたりにも注目......というより、可能な限り手頃になるよう祈りつつ、10月を待ちたいところです。