Mrs. Wordsmithが200万ポンドを調達――絵で単語を覚える新サービス | TechCrunch Japan

何かが間違っているような気がする。ニュースフィードは、不愉快で不安になるブレグジットやトランプに関する報道や、広告収益に関する方針に不機嫌な顔をしている若者の写真で溢れかえっている。私たちは大事なことを忘れてしまったようだ。それは、文字の力だ。「新語法(Newspeak)」に関する記述の中で、ジョージ・オーウェルは言葉を操る者こそが世界を操ると綴っている。

「新語法の目的は思考の範囲を狭めることだと気づいていないのか? 最終的には思考犯罪を行うのに必要な言葉さえ存在しないような世の中になろうとしているんだよ。必要な概念は全て意味が限定された一語で表現され、その言葉に付随する他の意味は全て消され、忘れ去られてしまうんだ……このプロセスは僕や君が死んだ後もずっと続くだろう。毎年言葉の数は減っていき、思考の範囲も狭まっていってしまう。だからといって、現時点では思考犯罪を犯す理由や言い訳があるということではない。全ては自制心や現実管理の問題だ。でも、最終的にはその必要さえなくなってしまう……遅くとも2050年までには今僕たちがしているような会話をできる人は1人もいなくなってしまうということをWinston、君は分かっているのかい?」

――ジョージ・オーウェル『1984年』

上記のような世界が現実にならないことを祈っている。今ならそれを防ぐことができるはずだ。神経科学の分野では、人間が新しい情報を習得する際、見慣れない、もしくは面白い情報と一緒に学習することで、記憶の定着度が上がると言われている。であれば、そのような形で学習を支援するプラットフォームをつくることで、子どもが喜んで言葉を学習するようになり、『1984年』が描くディストピア世界の到来を防ぐことができるのではないだろうか。

1年前に設立されたエドテック企業のMrs. Wordsmithは、まさにそんなプラットフォームをつくろうとしている。高品質なビジュアルコンテンツの制作を行っている同社は、この度シードラウンドで200万ポンドを調達した。ロンドンを拠点とするKindred Capitalがリードインベスターを努めた今回のラウンドには、アメリカでエドテック企業への投資を行うReach CapitalやSaatciNvest、Raopart Asse Managementらが参加した。Mrs. Wordsmithの狙いは、月額制のプログラムで言語教育をディスラプトすることだ。

現状、同社のサービスは全て紙ベースで提供されている。サービス内で紹介される語彙は、教育機関が読み書きの能力の向上に繋がると判断した、比較的使用頻度が少なく難しい単語1万語に含まれているものだ。

エドテック企業が集うThe Europasにて資金調達のニュースを伝えた、Mrs. WordsmithファウンダーのSofia Fenichellは、「私たちが対象としているような語彙のビジュアル化を試みた出版社はこれまで存在しませんでした。Mrs. Wordsmithはどの単語を教えるかだけでなく、単語と紐づいたイラストや間隔反復の技術を利用し、新しい教育方法を考えだしたのです」と語った。

自分の子どもの書く力を育てるために、2016年にCEOのFenichellが設立したMrs. Wordsmithは、子どもが単語を学習し、覚え、使うまでの過程を変えようとしている。さらに、最終的にはその効果が言語能力や成績の向上という形で表れると同社は考えている。

語彙力が学業的な成功につながるというのは、全くその通りだ。しかし、読み書きの力を増幅させる1万語もの語彙の学習を、Mrs. Wordsmithのように効率的に支援する方法はこれまでほぼなかった。

同社はサブスクリプション制の語彙習得プログラムを開発し、視覚的で覚えやすい方法で子どもの学習を支援しようとしている。見慣れない情報と組み合わさることで記憶の定着率が上がるという神経科学の考え方に基いて、各単語は映画『マダガスカル』や『モンスター・ホテル』の制作にも携わり、数々の賞に輝いたCraig Kellman(Mrs. Wordsmithではアートディレクターを務める)のチームによってイラスト化された。

同社は今回調達した資金を使い、ユーザーに人気の紙ベースのプロダクトをさらに進化させると共に、テクノロジー部隊を構築して、消費者と学校の両方をターゲットに海外展開を進めていく予定だ。

Kindred CapitalのLeila Zegnaは「世界中の子どもたちの学習を支援するためにMrs. Wordsmithが考案したユニークなアプローチや、彼らの野心的なビジョンにはとてもワクワクしています。最初のプロダクトは大成功をおさめ、ユーザー数と売上が大きく伸びました。しかも、ユーザーベース拡大の大部分は口コミの力によるもので、Mrs. Wordsmithが短期間のうちに築いたブランドの強さを証明しています。紙ベース版・デジタル版の両方にまだまだ大きな可能性があると私たちは考えています」と話す。

さらに、Reach CapitalのWayee Chuは「Mrs. Wordsmithは視覚的な学習方法と高品質なコンテンツを求める市場の声に応えようとしています。私たちはこれまで、彼らほどの学習用ビジュアルコンテンツをつくっている企業を見たことがありません。さらに教育者・消費者の両方を対象に、彼らはサービス開始早々から素晴らしいトラクションを残してきました。ユーモアと取り組みやすさ、そして学習効率を兼ね備えた彼らのプロダクトは、アメリカでもきっと受け入れられることでしょう。今年中を予定している、Mrs. Wordsmithのアメリカでのローンチに携われるのを楽しみにしています」と語った。

今回のラウンドを受けて、Kindred CapitalのLeila Zegnaと、ゲーム会社PlayifhとSuperCellの株主でもあるエンジェル投資家のBasma AlirezaがMrs. Wordsmithの取締役会に参画したほか、ケンブリッジ大学の自然言語情報処理研究所を率いるTed Briscoe教授が顧問に就任した。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter