妻「主婦の仕事を年収に換算すると1000万円なんですって」男「ハァ？」 : VIPPER速報

＜家＞

妻「専業主婦の仕事を年収に換算すると1000万円なんですって」

男「ハァ？」

男「なにいってんだ。たかが家事にそんな価値があるわけないだろ」

男「昔とちがって今は電化製品が進歩して、掃除も洗濯もほとんど自動化されてるし」

男「なによりもし家事をしくじっても、困るのは俺ぐらいだ。責任も少ない」

男「それなのに1000万？　朝っぱらから笑わせるなよ」

妻「ひどい……」

妻「なにもそこまでいわなくたって……」

男「いいたくもなるさ！」

男「こっちは毎日会社に通って、一生懸命仕事して、給料もらってるってのに……」

男「家でのんびりしてるだけで1000万？　サラリーマンをバカにするなよ！」

妻「……私のしてること、何も知らないのにそういうこというのね」

男「知りたくもないね！　――それじゃ行ってくる！」ﾊﾞﾀﾝｯ

男「…………」

男（あ～、ムカムカする！　朝っぱらから不愉快な気分にさせてくれやがって！）

男（――そうだ！　今日はこっそり彼女がどうやって家で過ごしてるか監視しよう！）

男（それで、いかに自分がマヌケなことをいってるか指摘してやるんだ！）

男「そうと決まれば――」ﾋﾟｯ

男「……もしもし、課長ですか？」

課長『なんだね？』

男「実は主婦の仕事が本当に1000万円以上の価値があるかどうか見極めるため」

男「今日は会社を休みたいのですが、よろしいでしょうか？」

課長『よろしい！』

男「ありがとうございます！」

男（ようし、今日は一日中あいつを監視してやる！）

テレビ『昨日、またも謎の飛行物体が観測され……ネット上で話題沸騰……』

妻「テレビのニュース、そろそろどうでもいい話題になってきたわね」

妻「さてとそれじゃ……まずはお洗濯しなくっちゃ」ｽｯ…

男（ふん、どうせ服を洗濯機に入れてボタン一つでポンッだろうが）

妻「せっかく全自動洗濯機を買ってもらったけど――」ﾊﾞｯ

黄金の洗濯板を取り出す妻。

妻「やっぱり私にはこれじゃないとね」ﾜｯｼｬﾜｯｼｬﾜｯｼｬ…

男（今時、洗濯板だとッ！？）

男（しかも速いッ！　秒間100……否、1000回以上はこすっている！）

妻「ハイィィィィィッ！」ﾜｯｼｬﾜｯｼｬﾜｯｼｬ…

男（速いだけじゃない！　瞬時に服の汚れ、布の性質を把握し、的確な強さで洗ってる！）

男（無数の選択をこなしながら、洗濯してるんだ……！　山田君、俺に座布団一枚！）

妻「ふう、ピカピカになったわ」ﾊﾞｻｯ…

汚れ一つなくなったワイシャツを満足げに眺める妻。

男（新品同様……いや、新品以上になってないか！？　いつの間にか糊付けされてるし！）

男（まさか夜のテクニックだけでなく、こんなテクニックまで持っていたとはッ！）

やがて――

妻「ふうっ、これでお洗濯終了ね」

男（たしかにすごい技術だった……。だが、まだまだ年収1000万には程遠いぞ！）

男（あの程度のことなら、そこらのクリーニング屋でもできるはず！　……多分）

妻「あら、そういえばそろそろご近所つき合いの時間ね」

男（ご近所付き合いだと？　いいねえ……専業主婦は気楽でさ！）

家の庭に、竹槍を持った老人がやってきた。

老人「キィエーッ！　今日も“突き合い”を始めようぞ！」ﾊﾞｯ

妻「いらっしゃい……」

老人「戦時中、ワシは竹槍でB-29を落としとるんじゃあ！」

老人「最近ではステルス戦闘機F-22を落とせるようになったぞ！」

妻「相手にとって不足なし！」ｼﾞｬｷﾝｯ

対する妻は物干し竿を構える。

男（唐突に近所のじいさんとの戦いが始まった……！）

老人「ワシは“松竹梅”という言葉が大嫌いでのう」

老人「なぜなら、竹が一番じゃないからじゃ！　なぜ真ん中なのじゃ！」

老人「“竹松梅”にすべきなのじゃ！　ちくしょう！」

老人「好きな植物は竹！　好きな武将は武田信玄！　好きな女優は松たか子！」

老人「そして、一番好きなチョコレート菓子はたけのこの里！」

妻「私は……エンゼルパイよ」

男（俺は……パイの実！）

老人「喰らえッ！　“雨後の筍突き”！」

老人「ニョッキッキィィィィィッ！」ﾋﾞｭﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞﾎﾞｯ

妻（すごい連撃ね……）ｷﾞｷﾞｷﾞｷﾞｷﾞﾝｯ

老人の目にも止まらぬ連続突きを、物干し竿でさばく妻。

男（あのじいさん、ボケてるのかと思いきや実力は本物ッ！）

男（雨の後に生えてくるタケノコのように、ガンガン突きを繰り出してくるッ！）

老人「どうじゃッ！　ワシの槍さばきはッ！」

老人「“竹取物語”のかぐや姫は最後月に戻った、といわれてるがありゃウソじゃ！」

老人「本当は“突きが得意”だったんじゃあ！　そしてワシはかぐや姫の子孫なのじゃ！」

妻「ぐっ……あながちデタラメでもなさそうね……」

男（反撃のスキがない……なんとかしてスキを作らなければ勝機はないぞ！）

妻「だけど、戦闘機は落とせても、たった一人の専業主婦は落とせないようね」

老人「なんじゃとォ！」

挑発によってできた一瞬のスキを、妻は見逃さなかった。

妻「今よっ！　“男の弱点”を突く！」ｼｭｯ

ズドンッ！

老人「無駄じゃ……ワシの“二本目の槍”はダイヤよりも硬く、ゴムよりも壊れにくい！」

老人「今でもばあさんをヒーヒーいわしておるからのう」ﾋｮｯﾋｮｯﾋｮ

妻「なんですって！」

男（バイ○グラかなにか飲んでやがるのかあのジジイ！）

老人「今こそ奥義発動じゃあ！　“竹やぶ焼けた”！」ｺﾞｫｫｫｯ

老人「ファイヤー竹槍じゃああああ！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝｯ

摩擦熱かなにかでファイヤー竹槍と化した竹槍を、振り回しまくる。

妻「あつぅっ！　あの竹槍、温度が10000℃はあるわ！」

男（まずい……！　このままじゃ妻がやられてしまう！）

男は思わず口を出してしまう。

男「がんばれーっ！」

妻「！」ﾊｯ

妻（今のは愛するあの人の声……！？）

妻（そうだわ、こんなところで手こずっていられない！）ｼﾞｬｷｯ

妻「物干し竿にあって、竹槍にないもの……今こそ教えましょう」

老人「なんじゃと……？」

妻「それは――洗濯物よ！」ﾊﾞｻｧｯ

老人「うぷっ！　前が見えんッ！」

妻は物干し竿に干してあったシャツで老人の視界を奪うと――

ズドォッ！！！

ミゾオチに強烈な突きを浴びせた。

老人「ぐふぉっ……み、みごとじゃ……」ﾄﾞｻｯ…

妻「今日は私の勝ちね、おじいさん」

男（よし、よくやった！）ｸﾞｯ…

妻「そろそろ井戸端会議の時間だわ」

男（井戸端会議……？　ああ、近所の奥さまたちとあれこれくっちゃべるんだな）

男（どの化粧品がいいとか、どこの店の卵が安いとか、お受験どうするとか）

男（主婦なんてもんはお気楽でいいねぇ……）ﾌｯ…

＜近所の公園＞

妻「みんな忙しい中、よく集まってくれたわね」

どこかの大統領「ハロー！」

あそこの首相「オヒサシブリー！」

あの国の国家主席「ニーハオ」

近所の公園には、大勢の人間が集まっていた。

男（あれれぇ……？　ニュースでよく見る顔が集まってるんですけど……）

妻「じゃあ、まずは中東情勢について話し合いましょうか」

ハーイッ！

妻を中心にして、世界情勢について話し合う一同。

男（こんなもん……井戸端会議じゃねえ……。“井戸端サミット”じゃねーか！！！）

“井戸端サミット”は午前中一杯続いた。

＜家＞

妻「お昼になったから、そろそろスーパーに行かなくちゃ」

男（買い物か……。どうせ、セール品だのタイムサービスだのに目を輝かせるんだろ？）

男（で、ついでに俺に内緒で新しい服買ったりするんだろ？　分かってんだよ！）

＜スーパーマーケット＞

店長「オーナー！　お待ちしておりました！　相変わらずお美しい！」

妻「お世辞はいいわ。それより今日の売り上げはどうなの？」

店長「すでに１０億円を突破しております！」

妻「まずまずね」

店長「ところでそろそろ、店の名前を“ハイパーマーケット”にしたいのですが」

妻「ダメよ」

店長「！」ｶﾞｰﾝ

男（な、なにィ！？　オーナーだと！？）

妻「これからもこの調子で頑張ってちょうだい」

店長「はいっ！　ありがとうございます！」

店長「ところで実は、店の名前を“ウルトラマーケット”にしたいのですが」

妻「ダメよ」

店長「！」ｶﾞｰﾝ

男（うむむむ……まさか、あいつが専業主婦とスーパーのオーナーを兼任してたとは……）

男（専業主婦ってなんだっけ……）

＜家＞

妻「少し疲れたわ……昼寝しよっと」ｺﾞﾛﾝ…

男（昼寝だと！？　やはり専業主婦だな！　せいぜい惰眠をむさぼるがいいさ！）

妻「５秒は寝たわね」ﾊﾞｯ

妻「５秒も無防備になるのは危険な賭けだけど……」

妻「ここで５秒寝るか寝ないかで、いざという時の爆発力がちがうのよね」

男（短すぎるよ……せめて５分は寝ようよ……）

妻「そろそろワイドショーの時間だわ。テレビつけなくちゃ」

男（ワイドショーか……俺はそんなもん見る余裕ないよ。ったく、主婦ってやつは……）

男（せんべいでもかじりながら、芸能人のスキャンダルに鼻息荒くするがいいさ！）

妻「カメラワークが悪い！　もっと司会に寄せて！」ﾊﾞﾊﾞｯ

妻「コメンテーターからコメントもらって！　早くッ！」ﾊﾞｯ

妻「ええい、ＣＭのタイミングが悪い！　スポンサーから苦情くるわよ！」ﾊﾞﾊﾞｯ

妻「次の話題は……そうね、近頃話題になってる未確認飛行物体になさい！」ﾊﾞｯ

電話越しにきびきびと指示を送る妻。

男（まさか俺の妻が、お昼のワイドショーを仕切ってるなんて……ッ！）

ワイドショーが終わると、妻の顔が“戦士”のそれに変わる。

妻「！」ﾋﾟｸｯ

妻「この殺気……来たわね」

妻「武装強盗団『A-KI-SU』！！！」

男（『A-KI-SU』！？）

家の外では、武装強盗団『A-KI-SU』の面々が戦闘準備に入っていた。

空き巣「空き巣とは“人がいない家を狙う泥棒”にあらず！」

空き巣「“家に潜む強敵を打倒して、家を空にする泥棒”なり！」

空き巣「ゆくぞ、今日こそこの家を攻略するのだ！」

兵士たち「イエッサーッ！！！」ｼﾞｬｷｰﾝ

『A-KI-SU』の面々が次々に家に乗り込んでいく。

兵士A「ハッハァーッ！　今日こそオレたちが勝利する！」ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｯ

自動小銃から弾丸を乱射する兵士。

ガガガガ……！　ガガガガ……！

妻「んもう、家を穴だらけにしないでちょうだい！」

兵士A「敵を発見！」ｻｯ

妻「あらやだ」

兵士A「もらった！」ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｯ

妻「おっと」ｻｯ

ババババババッ

妻「ふうっ……まな板を防弾仕様にしといてよかったわ……」ｼｭｩｩｩ…

兵士A「対策されているだとッ！？」

妻「ハイィッ！」

バキィッ！

兵士一人目を退治した。

兵士B「主婦は消毒だ～！」ｺﾞｫｱｧｧｧｯ

火炎放射器から炎を発射する兵士B。

妻「あいにく私のエプロンは耐熱仕様なのよ」ｼｭｩｩｩ…

兵士B「なっ、なんだと！？　前回の襲撃でとったデータが役に立たない！」

妻「熱には熱で対抗ッ！　アイロンクラッシュッ！」ｼﾞｭｩｩｩｩｩ…

兵士B「ぎゃっちぃぃぃぃぃぃぃぃっ！！！」

二人目も撃破。

兵士C「やはり重火器の類では倒せんか……ナイフで勝負！」ﾁｬｯ

妻「望むところよ」ｻｯ

包丁を構える妻。

兵士C「せやっ、てやっ、とうっ！」ｼｭﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

妻「甘いわね……そんなナイフさばきじゃ、キュウリもろくに切れないわ！」

ザシュッ……！

兵士C「つ、強すぎる……」ﾄﾞｻｯ…

空き巣「さすがだな……。私の部下は一騎当千の精鋭揃いだというのに」ｻﾞｯ

妻「来たわね」

空き巣「空き巣の極意とはッ！　家の人間にバレずに盗みをはたらくことにあらず！」

空き巣「家の人間を打ち倒し、盗みをはたらくことなり！　いざ勝負ッ！」

空き巣「これまでどんな空き巣でも成功させてきた私が、唯一攻略できなかった家……」

空き巣「それがこの家だッ！」

空き巣「しかし、血のにじむような努力の末、私はさらなる力を得た……」

空き巣「今日こそ攻略してみせるッ！」

妻「かかってきなさいな」ｸｲｯｸｲｯ

男（このリーダーらしい男は、格段に強そうだ……！　いったいどうなる！？）

妻「だああああああっ！」

空き巣「ぬああああああっ！」

バキッ！　ドガッ！　ドゴッ！　ドスッ！　ドガッ！

超人的なスピードで、激しく殴り合う二人。

空き巣「うぐっ……！」ﾖﾛｯ…

妻「たしかに進歩してるわね……だけど、まだ私が上よ」

空き巣「それは……どうかな？」

空き巣「空き巣奥義“蜘蛛の巣”！」ﾋｭﾙﾙｯ

妻「な、なにこれっ！？　急に手足が動かしにくくなったわ！」ｸﾞｯ…

空き巣「貴様の手足は縛らせてもらった」ﾋｭﾙｯ

空き巣「強力な繊維を合成させ作り上げた――この糸でね」ﾆﾔ…

妻「くっ……」ｸﾞｯｸﾞｯ…

妻「だけどこんな細い糸だけで私を拘束しようなんて、甘すぎるわよ！」ﾋﾞｭｵｯ

妻は縛られながらも蹴りを繰り出すが――

空き巣「“蟻の巣”」ｸﾈｯｸﾈｯ

妻「！？」

空き巣「曲がりくねった蟻の巣のように体を動かせる私に、そんな半端な打撃は当たらぬ」

空き巣「もはや攻撃も防御もできまい……トドメだッ！」

空き巣「私の拳で、貴様の全身を“蜂の巣”にしてくれる！」ﾆﾔ…

妻「くううっ……！（体が動かせない……！）」ｸﾞｯｸﾞｯ…

空き巣「『A-KI-SU』は無敵だッ！」ﾀﾞｯ

空き巣が猛スピードで突っ込んできた。

妻（あなた……助けて……ッ！）

空き巣「もらったァァァァァッ！！！」

男「えいっ」ｸﾞｲｯ

空き巣（なんだ！？　誰かに足を引っぱられ――）ｶﾞｸｯ

妻「？」

妻（もしかして、私の祈りが通じたの……？　――って考えてる場合じゃないわ！）

妻「血のにじむ努力……？　どうやらあんた、努力の方向間違えすぎよッ！」ﾌﾞﾁﾌﾞﾁｯ

ボゴォッ！！！

空き巣「ぶげぇ……っ！」ﾄﾞｻｯ…

糸を引きちぎりながら、妻が空き巣の顔面に渾身の右ストレートを喰らわせた。

男（ふうっ……思わず手助けしちまったぜ）

妻「ここがもし、私だけの家だったら、あなたが勝ってたでしょうね」

妻「だけどあいにく、この家に住んでいるのは私と夫の二人！」

妻「私には二人分のパワーが宿っているのよ！」

空き巣「そうか……ここは貴様らの“愛の巣”だったというわけか……」ｶﾞｸｯ

男（山田君、あの空き巣に座布団１０枚！）

空き巣は逮捕され、妻は夫の留守を守る作戦（ミッション）を達成した――

―　MISSION COMPLETE！　―

男「ただいま……」ｶﾞﾁｬｯ

妻「あらお帰りなさい。今日はずいぶん早いのね」

男（なにしろ会社行ってないからね）

妻「ごめんなさいね、まだお夕飯できてないのよ」

妻「あと……今朝は変なこといっちゃって……ごめんなさい」

男「いや……いいさ。今夜は出前でも取ろう。だって――」

妻「？」

男（今日一日で主婦がどれだけ大変かが、分かったから、さ……）

男（俺も明日から仕事頑張ろう！）

翌日――

＜会社＞

男「すみません課長、昨日は急に休んでしまって」

課長「なに、かまわんよ。君もたまには休みが欲しいだろう」

課長「だがさっそく、仕事にとりかかってもらう」

課長「実は近頃話題になっている未確認飛行物体は、やはり宇宙船だと分かった」

課長「宇宙船はここからそう遠くないところに着陸し、現在は待機している」

課長「どんな達人にも気づかれないほど気配を消せる君の力で、潜入して欲しい」

男「分かりました！　宇宙人の狙いを探ってきます！」ﾋﾞｼｯ

男（俺にとっちゃ朝飯前の仕事だけど……地球と愛する妻のために頑張らないとな！）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜おわり＞