身近にあふれるデジタル用語。実際のところ、どれだけ意味を分かっているだろうか。全国の男女約1000人に調査し、「説明できる」と答えた人が少ない順にランキングにした。
■用語知らずとも使える技術が浸透
ふだん何気なく使っているデジタル用語。よく聞くのに意味が分からない言葉を聞いたところ、スマホやAI関連が上位に並んだ。
調査では「話についていけない」(50代女性)との声が目立った。ライターの鈴木朋子さんは「ITかどうか意識しないですむ技術やサービスが開発されており、用語を知らないまま過ごしている人が多いのでは」と指摘する。一方でライターの佐野正弘さんは「別の言葉を使えば分かる用語もある」と話す。「例えばAR。言葉は知らなくてもポケモンGOの話をすれば伝わりやすい」
プラス1では2012年にも同様の調査を行い、1位はWi―Fiだった。今回もリストに載せたところ、ほぼ半数が「意味を説明できる」と答え、84語中79位だった。「スタンプ」は515人が説明できると回答(80位)。最も認知度が高かったのは「マナーモード」だった。
死語と化した言葉もある。「最近聞かなくなった用語」を尋ねたところ、ポケベル、フロッピーディスク、マイコン、PHS、ADSL、ユビキタスなどが出た。プラチナバンドなど比較的新しい言葉をあげた人も。IT用語の変遷は激しい。
1位 シンギュラリティー 説明できると回答 1030人中44人
AIが人間超える転換点
人工知能(AI)が人間の能力を超える転換点を意味する。「技術的特異点」と訳すことも。2045年までにはシンギュラリティーを迎え、人間とAIの能力が逆転するとの予測がある。ただ、人間の持つ感情や喜怒哀楽がAIに表現できるのか、疑問も残る。
調査ではAIについて「歌手の名前」(30代男性)、「アイという名前のロボット」(30代女性)との勘違いも。「何の略かよく分からない」(60代女性)との声もあった。AIは「Artificial Intelligence」の略だ。ITライターの佐野正弘さんは「サービスや技術に関わりがないと、なかなか意味までは分からないだろう」と話す。
2位 フィンテック 75人
金融サービス、テクノロジーで進化
「金融(Financial)」と「技術(Technology)」を組み合わせた造語。「金融×IT」と紹介されることもある。テクノロジーで進化させた新型の金融サービスを指す。スマートフォン(スマホ)の普及とともに急速に広がり始め、家計簿アプリやクレジットカードの管理、SNS(交流サイト)を使った支払いや送金などサービスも多様化している。
フィンテックは日本経済新聞朝刊にこの1年間で500回以上登場した。「言葉は知らなくても、実際に使っている人は多いはず」(ITライターの鈴木朋子さん)。それでも「会社の名前だと思っていた」(30代男性)など、言葉としての認知度はまだ高くはないようだ。
3位 キュレーション 76人
特定テーマで情報をまとめること
特定のテーマについて、ネット上の情報を収集してまとめること。情報をまとめたサイトをキュレーション(まとめ)サイトと呼ぶ。
もともとは博物館や美術館などの館長、管理者を意味する「キュレーター」から派生した言葉。キュレーターは専門知識を持ち、展覧会などを企画・運営する職業で、学芸員と訳されることが多い。
ネット上には膨大な情報があふれており、検索などで探し出すのはひと苦労だ。「必要な情報だけを集めたい」というニーズがキュレーションサイトを生んだともいえる。2016年には一部のキュレーションサイトが誤った情報を流すなど問題が相次ぎ、言葉にも注目が集まった。
4位 データサイエンティスト 82人
膨大なデータ分析し解決策示す専門家
ネット時代に対応した、新しいタイプのデータ分析の専門家。企業が日々集めるデータはきちんと分類されているわけではない。データサイエンティストは技術や知識を駆使して膨大なデータの中から需要動向などを掘り起こし、課題や解決策を示す。
特別な資格はないが、統計学や数学の知識、高いデータ処理能力が求められる。AIに力を入れる企業が増えており、優秀なデータサイエンティストは引く手あまたとなっている。
5位 ペアレンタルコントロール 86人
スマホやゲーム、親が利用制限
親が子供の情報機器利用を制限、監視すること。有害なサイトへのアクセス、コンテンツの購入制限や、利用時間の設定などができる。
似た言葉に「フィルタリング」があるが、こちらはネット上の閲覧制限を意味することが多い。ペアレンタルコントロールはパソコンの機能制限やゲーム機の利用時間設定、メール送信の宛先制限など、より広い意味で使われる。
最近ではスマホやパソコン、ゲーム機などに初めから機能として付いていることが多い。回答では「ペアで何かをコントロールすることだと勘違いしていた」(40代女性)との声もあった。実際に機能制限を活用している人は多いものの、言葉としてはまだまだ浸透していないようだ。
6位 ライフハック 90人
【効率良く仕事をこなし、高い生産性を上げるためのテクニックやノウハウ】
仕事術、生活術と訳すことが多い。2005年ごろから日本でも使われ始め、個人のブログやSNSで共有され広まった。今では仕事にとどまず、家事や生活全般の効率化も表すことが多い。「ハック」とは技術的に深く追求することを意味しており、ハッカーの語源でもある。
7位 ディープラーニング 97人
【人間の脳の神経回路を模した情報処理システムを構築し、コンピューターが自らデータを認識して学んでいくこと】
深層学習とも呼ぶ。AIの進歩を支える技術のひとつ。人間のプロ棋士に勝ったことで話題となったアルファ碁や将棋ソフトの開発にも使われている。写真はアルファ碁と対戦する中国人棋士。
8位 ホワイトハッカー 118人
【ネットワークに関する高度な知識を持つ技術者】
ハッカーはシステムに不正侵入する悪いイメージが定着しているが、ホワイトハッカーは技術をサイバー攻撃の阻止など善良な目的に使う。最近ではコインチェック(東京・渋谷)の仮想通貨流出事件の際に注目された。写真はホワイトハッカーが指すPC画面。
8位 eスポーツ 118人
【エレクトロニックスポーツの略で、コンピューターやビデオゲームを使った対戦型の競技】
観戦者が数万人規模に及ぶこともある。22年のアジア競技大会では正式種目に採用されることが決まっている。写真はポーランドで行われたeスポーツの大会。
10位 オープンソース 119人
【プログラミング言語で書いた文字列を無償で公開し、誰でも自由に改良できるようにしたソフトウエア】
基本ソフト(OS)のLinux(リナックス)が知られている。一般のソフトは利用料が必要になる。
ソースという言葉はプログラミング言語の文字列を意味する「ソースコード」から来ているが、「ソースは料理にかけるソースだと思っていた」(60代男性)との勘違いもあった。
11位 AR 127人
【「Augmented Reality」の略。拡張現実】
特定の場所や印刷物に向けてスマホなどをかざすと画面上に情報が表示される。ゲーム「ポケモンGO」で有名に。「車の種類だと思っていた」(50代女性)との声も。写真はiPadでARを楽しむ人たち。
12位 ページビュー 146人
【サイト訪問者が閲覧したページの数】
1人が10ページ見た場合、ページビューは10になる。この場合、アクセス数は1。20代と30代は「聞いたことがない」人が35%にとどまったが、50代以上は57%が知らなかった。
13位 スマートホーム 151人
【家電や住宅設備、センサーなどをネットワークに接続して一括管理する住宅のこと】
家電のオンオフや施錠をスマホで行うなど様々な展開が考えられている。
14位 ローミング 158人
【契約している通信事業者のエリア外でも、提携事業者の設備を使って利用できるようにすること】
携帯電話など海外旅行中に利用することが多い。
15位 IoT 170人
【身の回りのものをすべてネットにつなげる仕組みのこと】
「Internet of Things」の略。「エルオーティーと読んでいた」(30代男性)人も。
16位 サムネイル 175人
【画像を縮小して一覧表示したもの】
サム(thumb、親指)のネイル(nail、爪)が語源。サムネイルを使うと画像の移動や整理が容易になる。
16位 ビッグデータ 175人
【企業などが蓄積している大容量のデータ】
通常のパソコンでは処理できず、スーパーコンピューターを使うことが多い。データサイエンティストが分析を担う。
16位 クッキー 175人
【閲覧履歴など一時的に保存したデータ】
2度目に訪問した際に時間が節約できる。菓子ではない。
19位 ウエアラブル 179人
【身に付けるタイプの小型端末】
腕時計タイプなどが普及し始めている。写真はウエアラブルカメラ。
20位 MVNO 180人
【自前で回線設備を持たない通信事業者】
「言葉は知らなくても格安スマホと聞けば分かるはず」(佐野さん)
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ランキングの見方
数字は回答者の数。写真はホワイトハッカー以外は全てロイター。
調査の方法
ネット用語に詳しいライター、鈴木朋子さんと佐野正弘さんの協力で、最近よく聞くデジタル用語を84語リストアップ。3月中旬、ネット調査会社のマクロミルを通じて全国の20~60代の男女に調査を実施。「意味を人に説明できる」「何となく意味は知っている」「聞いたことはあるが意味は知らない」「聞いたことがない」から選んでもらい、「説明できる」と答えた人が少ない順にランキングにした。「デジタル用語で勘違いしていたこと」「最近聞かなくなったデジタル用語」についても聞いた。有効回答数は1030(各世代とも男女同数)。3月中旬、日経生活モニターにも「最近聞かなくなったデジタル用語」を聞いた。有効回答数は210。
[NIKKEIプラス1 2018年4月14日付]